調査
「最近、
「えっ!?」
休み時間、トイレで髪を直している横でふいに
「“えっ”て…。バレてないとでも思ったの?最近よく有村君と話してんじゃん~」
確かに以前より有村とは話すことが増えた。もちろん犯人探しの件もあるが、誤解が解けて話しやすくなったというのもある。
「夏休みに絶対何かあったでしょ〜」
ニヤニヤしながら
「まぁ、ちょっとね…」
嘘ではない。夏休み期間中に何かあって今に至る。
「え、もしやデートでもしたの?ん??」
由香里はずいずいと顔を近づけた。
「違うよ、有村君の探し物を少し、ね……」
実際のところ探し“物”ではなく、“人”だったのだが。
(有村君のおばあさん、ごめんなさい!)
「ふーん、そういうこと……」
「詳しく聞かせてよ〜」
ちょうどそこでチャイムが鳴った。
「あっほら授業始まるよ?行こいこ!」
「話逸らした〜」
あの日、初めて新しい部室で集まった日。自分たちはある約束をした。それは“犯人探しの件は同好会メンバー以外には言わないこと”だ。
犯人探しが大っぴらになっても面倒だけど、まずは万が一犯人に知られたときに新たな被害者が出るかもしれないのが大きい理由だ。
これ以上、誰も危険な目に遭ってほしくない。
それは、奈緒も有村も同好会メンバーも皆が思っていることだった。
☆
「いや〜、手がかり見つかりませんねぇ……」
頬杖をつきながらぼんやりと
あれから約一週間。委員会の仕事などもあって中々全員は集まれなかった。ただ来れる時に各々部室に寄って得られた情報を共有することにしていた。今日は奈緒と山辺の二人だけだ。
転落事件に関しては主に奈緒が、火事は科学同好会が、手紙や仮面のこと、自身の知り合いついては有村が中心となってそれぞれ調査することになった。
「あ、そうだ。
思い出したように奈緒がそう言うと、
「いや、実は……」
山辺はポリポリと顔を掻いた。
山辺が言うには、彼女はつい先日何とか学校に復帰出来たのだが、一人になるとパニックになって過呼吸を起こしてしまうらしい。そのため友人と常に一緒にいないと校内を歩けないのだとか。
「移動するときだけじゃなくて、休み時間もトイレも、放課後もずっと誰かと付きっきりで、ちょっと今は話かけられないっすね……」
「まぁ、それは仕方ないね」
自分を突き落とした人がまだ誰か分からない。もしかしたらまた自分に何かするかもしれない。そんな恐ろしい環境のところに彼女は戻ってきたのだ。余程の勇気がないとそんなことはできない。
(木之下さんは凄い人だ…)
「
「あったといえば、少し収穫はあったかも……?」
「マジっすか!?」
山辺は目を見開いた。
転落事件で唯一犯人を目撃したと言っていた
噂でしか知らなかった仁科は、顔にそばかすがある少しおどおどした感じの小柄な生徒だった。
転落の事件のことで話を持ちかけるともうこりごりだ、という顔をした。
彼にはもちろん犯人を探しているとは言わず、「犯人が捕まっていないのが怖い。だから犯人の特徴を知っていたら教えてほしい」と頼んだ。最初は
「仁科君が見たのは男子生徒なんだって」
「男子生徒っすか……」
仁科が階段から落ちた時、仮面をつけた学ラン姿の生徒が上から見下ろしていたとのことだった。しかし、仁科はこの時点で軽い怪我を負っており、追いかけようにもすぐに立ち上がることは出来なかったそうだ。
以前に聞いていた情報では“仮面をつけた生徒”ということまでしか分からなかった。
「なるほど。確かにこれで転落させた人物は、生徒の半分まで絞れるっすね」
「とは言っても女子が男装する可能性もなくはないんだけどね」
「いや、する人なんてそんなにいないと思いますよ?」
しかし半分、されど半分。犯人になり得そうな人物なんてまだまだたくさんいるのだ。
「火事に関しては新しい情報はないんだよね?」
「そうっすね。学校の方では藤井先生が責任負って一旦区切りをつけているわけなんで、そういう意味でも探りにくくて……」
「そっか……」
「ってか、薬品は誰が持っているんですかねー」
山辺はため息をついた。
「そういや薬品っていくつ盗まれたんだっけ?」
「二つっす」
山辺は手で二を表した。
「本当なら警察に被害届け出してもいいのかもしれないけど、学校としては
「確かに、今のところは落ち着いてるし、騒ぎ立てられたくないのかも」
新学期が始まってから今日まで何事もなく日々が過ぎている。転落、火事や盗難は腑に落ちない点が多いが、生徒の
「あれ、そういや、有村先輩は?」
「今日はすぐ帰ったよ。確か、おばあさんとこに面会に行ってる」
「大変だなぁ〜」
「私も今日は帰るね」
とりあえず、最新情報は山辺に伝えた。きっと直ぐにあずさにも伝わるだろう。
「え、もう帰るんすか?」
「うん。あずさにもよろしく言っておいて。あと、
「そうっす。明日ようやっと全員揃うんすね」
「じゃあそのときまで、もう少し情報集めてみる」
「うっす」
☆
静かになった部室で山辺のスマホが鳴った。
「はいもしもし。あ、蓬莱先輩っすか?……えっ、例のアレ、手に入りそう?マジっすか!?」
山辺はタブレットを開き、付属のペンをクルクルと回した。
「え、有村先輩?……あぁ、あの人まだ気づいてないっすよ。大丈夫っす」
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