第二部
作戦会議
「狭くね……?」
「こら、文句言わないの」
ふくれっつらのあずさの横で
鍵を開けた先は、奥行き四メートル、幅三メートルほどの小部屋だった。さらに両壁にスチール製の書類棚、それに挟まれるように会議で使うような長机が置かれてあり、棚とパイプ椅子の間は五十センチほどしかない。
「部室をもらえただけでもよかったじゃん」
「まぁそうだけど……」
「そうっすよ、先輩。
「あと、
二学期からようやく科学同好会の活動再開が認められた。しかし、以前使っていた化学実験室は授業以外での使用は禁止となってしまった。
そんな中、顧問不在の同好会を気にかけていた山辺の担任の尾崎、そして高山が他の教師たちに呼びかけて活動できる場所を探し、こうして教材室(という名のほぼ物置き)を用意してくれたのだ。
「マジ高山先生さまさまっす‼︎」
しばらくして扉の開く音がした。
「失礼し……って、せまっ」
「やっぱり、ほら〜」
あずさがそう言うと蓬莱がキッと睨んだ。
「有村君、ここ座って」
奈緒は入り口近くの山辺の隣を案内した。
「ありがとう」
「あ、……えっと迷惑かけると思いますが、よろしくお願いします。有村です」
鞄を椅子の上に置いて有村は同好会メンバーに頭を下げた。
「いいの、いいの。こちらこそよろしくね。三年の蓬莱です」
「男の先輩、マジ嬉しいっす!一年の山辺っす」
「改めて宜しく、二世。名前はこの間教えたよね?」
あずさが腕を組みながら言った。
「に、二世……?」
「有村
「なんか王家の一族みたいだね」
奈緒は世界史の授業に出てくる人物を思い出した。同じ名前になると誰が何をやったか分かりづらくなるところがこの教科の嫌いなところでもある。
「ルパンも三世っすよ?良くないっすか?」
すかさず山辺が言う。
「エリザベス女王も、エリザベス二世だし」
とあずさ。
「落語家も
微笑みながら蓬莱も言う。
「もう、どっちでもいいです……」
「私は有村君って呼ぶよ?」
「まぁまぁ自己紹介は程々にして。じゃあ、早速今までを整理しちゃいましょ!」
蓬莱がパンっと手を叩いた。
☆
「えーとまずは転落事件ね」
山辺が鞄からタブレットを取り出した。PowerPointを開き、蓬莱が言った情報をその場で入力してみんなに見せる。
転落事件の被害者は三人。いずれも階段で後ろから突き落とされたと証言している。
・2-3
・1-5
・2-4
三
「この三人の共通点をまずは知りたいわ」
「みんな互いに実は知り合いだったとか、何か知ってる?」
転落事件の被害者に三年生はいない。そのため、奈緒達後輩が知ってる情報を絞り出すしかない。
「えーと、確か仁科君と遠藤君は部活も違うみたいだし、去年も違うクラスだったから知り合いでもないと思うし、ましてや友達でもないと思います……」
「木之下さんは?」
蓬莱が山辺に尋ねた。
「木之下さんって基本大人しいんすよね〜。僕、そもそもそんなに話したことないし、まだ学校もまだ来てないから、そこらへんはよく知らないっす」
「みんな知らないし、よく分からない……」
有村は
「まぁ、あんたは転校生だからね」
あずさが有村の肩をポンっと叩いた。
「あ!みんな出身中学が同じ、とかは?」
思いついたように奈緒が聞くと
「木之下さんは県外から来たんっす。その線は多分薄いかも」
「そっか……」
頭をいくら絞ってもそれぞれが仲良くしているところも、彼らが共通した誰かと繋がりがあるようにも見えない。残念なことに自分達はそこまで彼らに詳しくない上、情報を知っている人を見つけられるほど人脈も広くない。
「うーん、じゃ、次!」
蓬莱の一声で慌てて山辺がタブレットに入力する。
化学実験室の火事について。
火事は夜に発生し、幸い怪我人はおらず被害は室内にとどまった。火事の発生と共に薬品の盗難も発覚したため、実験室を活動場所にしていた同好会が疑われた。最終的に同好会顧問と火元責任者の藤井が責任を負うことになり、藤井は現在
「実験室の火事に何かヒントのようなものはない?犯人になりえそうな人物はいそう?あと、転落事件と関係してそうなところは?」
「これに関してはうちら同好会も二世も犯人だって疑われたけど、実際やってないしね」
あずさがチラリと有村を見る。
有村は黙ってコクコクと頷いている。
「もし犯行が生徒なら、うちのクラスの人が時系列的には可能かも」
もし自分のクラスが使う前に薬品が盗まれたのなら、実験なんて出来なかったはずだ。
「でももしそうなら、鍵を借りに職員室に行かないいけないから、特定しやすいはずなんだけどな」
あずさが天井を見上げる。
「火を起こせる薬品が盗まれて、火事が起こったわけだから、薬品に詳しい人じゃない?」
頑張って浮かび上がる犯人像はそれくらいだ。
「――藤井先生の自作自演、とか?」
有村がポツリと言った。
「いやいや、まさかぁ〜」
「それはないっしょ」
「それが本当なら謹慎処分どころじゃないっすよ?」
「そう、だよね。……ごめん」
「あ、でも藤井先生の授業とかテストを嫌だと思ってる生徒はそれなりにいるんだよね?」
あずさがそう言うと、蓬莱が聞いてきた。
「私、藤井先生の授業受けたことないから良く知らないのよね、そんなに難しいの?」
「テストの点数は五十点いけば大したもんですよ」
奈緒も由香里たちも頑張って三十から四十点台だ。
「そんなに……」
「じゃあ、藤井先生目当てで火事を起こしそうな人はそれなりにいるってこと?」
有村がそう聞くと
「そうなるかも。火事を起こして先生を陥れたいってのが目的なら」
「この火事は意図的なものか、本当に不始末なのかはっきりしないのよね。先生を狙いにしてるのかも分からないし……」
蓬莱が頭を抱えた。
薬品が盗まれたのはきっと意図的だし事件になる。けれど、その薬品が本当に火事で使われたのかも奈緒たちには知らされていない。それ以外の用途も思いつかない。
「次、いっちゃいましょう!」
今度はあずさが仕切り直した。
「あとは最大の謎。どうして二世が疑われるようなことになったか」
「本当それよねぇ……」
転落事件の犯人と思われる人物が身につけていた仮面は有村の鞄の中に入っていた。火事の一件についても、最後に薬品を手にする可能性が高いのは有村だった。その後に起こった奈緒の用具室の閉じ込め事件もそもそもは有村が被害に遭うことになっていた。
「この学校に昔の知り合いはいない?幼稚園とか小学校とかの」
蓬莱が有村に聞いた。
「実際に知り合いがいるかは、ここに来て少ししか経ってないので分かんないです」
「何が原因か分からないけど、よほど君のこと気に食わないって人じゃないと、正直ここまでしないと思うんだけど……」
「本当に心当たりがないんです。中学の友達とも今は会ってないですし……」
有村は俯きながら言った。
「——有村君。悪いけど、昔のアルバムとか家にない?」
少し考えてから蓬莱が言った。
「アルバム、ですか……?」
「そう。卒園とか卒業アルバムでいいの」
「え、……ってまさかそこから探し出すんですか!?」
「だってもうその手しかないじゃない。しらみつぶしに探しにいかないと」
「蓬莱先輩、一学年に百五十人以上はいます。一人ひとりあたるのは時間が—―」
奈緒もそう言うと
「大丈夫!」
あずさがすかさず言った。
「そうすっよ、そこは蓬莱先輩に任せて大丈夫っす☆」
山辺が親指を立ててウインクした。
「よ、宜しくお願いします……」
「蓬莱先輩ってなにもんなの……?」
奈緒の耳元でコソっと有村が言った。
「私も詳しくは……」
蓬莱には怪談の日を含めてまだ数回しか会っていない。
あずさと山辺の反応を見る限り、何かよほどの実力者なのだろう。
(蓬莱先輩、一体何者……?)
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