怪談
「やっと終わった〜」
チャイムが鳴り、
三日間に渡る期末テストの最終日。
苦手な数学と化学はそれなりに時間をかけて勉強した。その一方で暗記ものはほぼ前日に詰め込んだが。
「なーお!お疲れ様会しよ!」
帰り際
「するする〜!」
今は
チラッと有村を見る。
「あ、有村君も誘う?」
奈緒の視線に気づいた
「いや、いい」
きっぱりと言った。
「え~、つまんない。あ、それよりさ〜夏休みの計画立てよ!」
「いいね~」
「じゃあ、「グラッド」で」
「りょーかい!」
昇降口で靴を履こうとした時、スマホのバイブ音がした。
LUINEの通知が来ていた。あずさからだ。
『テストおつー』
『明日空いてるー?』
「明日、か」
有村の作戦会議だろうか。特に予定もないので
『無いよー』
と返信すると
『明日、お昼過ぎにうちに来て』
すぐにメッセージが来た。
☆
「おじゃましまーす」
ドアを開けると玄関に既に客人と思われる靴が二足置いてあった。
二階から何やら人の笑い声が聞こえる。
(他にも誰かいる……?)
あずさの部屋をノックして入る。
「はーい」
扉を開けると、あずさの後輩――
(これは科学同好会の集まり……?)
「あ、えっと—―」
少し戸惑っていると
「あっ、ごめん、ごめん!そうだ、一回くらいしか会ってなかったね」
小柄な少女が答えた。
「三年の
「蓬莱、先輩……?」
「ふふ、あずちゃんたちが一年の頃、二人が一緒にいるところで声かけたことがあるんだけど」
「えっ、あっ、そのー、覚えてなくてすみません……」
「いいの、いいの」
「あずちゃんから聞いてるよ、奈緒ちゃんのこと」
「え?」
「ごめん、奈緒。同好会絡みのこともあって話しちゃった……」
気まずそうにあずさが言った。
「疑われるのは私達も嫌だったから、例の転校生の子のことも兼ねて一緒に調べたいって思って。それに――」
「あずちゃんの味方でいてくれてありがとね」
蓬莱はコソっと耳元で言った。
「え……」
蓬莱は微笑んだ。それはまるで妹を優しく見守る姉のような表情だった。
「同好会の疑いを晴らすこと、奈緒を閉じ込めた犯人を突き止めること、一連に関係していると思われる有村を調べること——、我々の目的は同じ」
あずさが言った。
そうだ。目的は一緒。
「同好会
蓬莱が奈緒の手を取って言った。
「はい!」
「――ということで、今日は結成を記念して、怪談パーティしちゃいましょー!」
「はい?」
☆
「――でもね、その人はやっぱりどう探しても見つからなかったの。当たり前よね、もうとっくの昔に亡くなっている人だもの……」
蓬莱は最後まで静かに語った。
「ひゃ〜、怖いっすね」
山辺は持っていたタオルをぎゅっと握りしめながら言った。
「蓬莱先輩はその話は一体どこから?」
あずさが蓬莱に聞いた。
「ふふ、うちのおじいちゃんの知り合い。お坊さんなんだけど、こういう話も詳しくて。……あ、そうそう、でもここの地域に昔から聞かれている話っぽくて—―」
蓬莱はゴソゴソと鞄からメモを取り出す。
「さすが先輩。抜かりがないですね!」
「でしょでしょ〜」
怪談話のことを知らされてなかった奈緒は持ちネタがないため、同好会メンバーの語りをひたすら聞いていた。
怪談話は既に二周目に突入していた。
「次は山辺の番〜」
「ゔっ、ゴホッ、エヘッ!」
「ちょっと大丈夫?」
蓬莱がジュースを山辺に促しながら言う。少しぽっちゃり体型の彼は手に取ったジュースをガブガブと飲む。
「フー、すみません。お菓子が引っかかりました」
テーブルの上には大量のお菓子。けれど、話の途中で音を立てると雰囲気を壊してしまうため、それぞれの話の合間につまんでいた。
「ン゛ン゛っ!では、始めます」
咳払い後、三角の眉毛をキリッとさせて彼は語り始めた。
「――僕、うちの学校に七不思議がないか調べたんです」
「でも、残念ながら調べてもあまり七不思議らしい話は聞けませんでした。代わりにと言ってはなんですが、気になる話を聞きまして—―」
「気になる話?」
奈緒は思わず聞いた。
「えぇ、ある男子生徒の話です」
「――とある女子生徒は、放課後図書室で勉強をしていましたが、うっかり眠ってしまいました。図書委員に起こされ、気づくと既に下校時刻をとっくに過ぎていました。外を見ると、もうあたりは真っ暗です。女子生徒は慌てて昇降口に向かいました。けれど、教室に忘れ物をしたことに気づいたんです」
「ほう、それで……?」
つい最近の自分のようだと、心の中で思いながら奈緒は尋ねた。
「自分の教室に向かう途中で、廊下のつきあたりの非常階段の方に何かがいることに気づいたんです。でも非常階段なんて誰も使わないじゃないですか」
「そうね」
蓬莱が頷きながら言った。
「もし、それが生徒だとして残っているなら、帰るよう声をかけようと思ったんでしょうね。教室に寄る前に非常階段の扉を開けたんです。——でも誰もいなかった」
「なんだ、気のせいかと思って扉を閉めて教室に向かおうとしたとき、後ろから声がしたんだそうです」
「『返して……』と」
「女子生徒は怖くなって夢中で走り出しました。ところが、慌てたためにうっかり転んじゃったんですね。立ち上がろうとしたとき、目の前に男子生徒がいることに気が付きました。誰か助けが来たのかとふと顔を見ると—―、その生徒は頭からは血を流していたんです」
「そして、さっき聞いた声で言ったんです。『ねぇ、返して』って」
暫く沈黙が続いた。
「――それで、その女子生徒はどうなったの?」
沈黙を破るようにあずさが聞いた。
「え?そのまま、また走り出して無事に家に帰ったみたいっすよ」
ケロっとした顔で山辺は言う。
「あ~、もー怖かった~」
オチが無いと怖い話はやっぱり苦手だ。
「ところで、
あずさがすかさず聞いた。
「えーっと、聞いたのはうちのクラスの友達のお姉さんからっす。体験したのはそのお姉さんの友達で—―」
「ほう……」
「でも、ここからなんです」
真面目な顔に戻って山辺は言った。
「実はその幽霊と思われる男子生徒、うちの生徒じゃないみたいなんすよね~」
「というと?」
「うちの学校が建てられる前、実は同じ敷地内に県立の男子校があったそうっす」
「男子校?」
蓬莱が聞き返した。
「初めて聞いた……」
奈緒の学校は建てられて二十年くらいなので、男子校があったのは二十年以上前ということになる。
「で、その男子校、もう廃校になったみたいなんですけど、廃校になる前っていうか……、もう廃校になるきっかけみたいなもんすね」
「もうっ!じれったいから早く言ってよ」
蓬莱が
「――事故があったんですよ。生徒が非常階段から落ちて亡くなった事故が」
「え……」
「ちゃんと記事もありました」
そう言ってコピーした新聞記事を取り出した。
それを手に取ってあずさが読み上げる。
「えーっと、六月十日、県立
そこであずさは読むのを止めた。
「え、どうしたの?」
奈緒の方を見てあずさは聞いた。
「ねぇ、転校生の名前は?」
「え?有村だよ」
「フルネームは?」
「有村……、
そう言うとあずさはもう一度新聞記事に目を落とす。信じられないという目つきだ。
「……そうなんすよ。先輩から話を聞いて、なんか聞いた名字だな〜って思ったんっす」
山辺が言った。
「これ……」
あずさが持っていた新聞記事を見せた。
そこに載っていた男子生徒の名前は――、「有村 由紀雄」だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます