尾行
『尾行してみるってのは?』
☆
「今日、あたしすぐに帰らなくちゃいけないから!」
「おー、珍しいじゃん。なんか用事?」
「ま、まぁそんなとこ」
「んじゃまた明日〜」
「バイバーイ」
二人は自分がこれからすることを知らない。
用事——、尾行の決行日は今日だ。
(よし!)
廊下、昇降口、校門と、順調に進む。
(あとはこのままバレずについていけばいいだけ……)
学校から坂を下り、曲がり角では少し早めに、一本道では距離をとりつつ歩いていく。
(いける、いける!)
団地がある一角を通り過ぎ、商店街を抜けて有村はひたすら進む。しかもその速度は意外と速い。
(遠くない?)
時間を確認すると、校門を出たところから三十分近く過ぎていた。
周囲を見回すと、そこは知らない住宅街だった。
(初めて来た、こんなところ……)
住宅街は一軒家が多く、その中でも一際古い家の前で有村は立ち止まった。
その家は築三十年以上は有に超えているだろう。庭もあるが、手入れが行き届いておらず、あちこちに雑草が生えているのが見えた。
また、周囲の家が比較的新しいこともあり、まるでそこだけ取り残された感じがした。
近くの電信柱に隠れて様子を伺う。
有村はゴソゴソと鞄を探り、鍵を取り出して家の中へと入って行った。
(こんなところに住んでいるんだ……)
彼がすぐに家から出てこないことを確認して奈緒は有村の家に近づいた。
表札は取り外された跡があった。
「あー!お化け屋敷ー‼︎」
後ろで突然子供の声がした。
「シッ!聞こえるでしょ‼︎」
振り返ると五歳くらいの男の子が有村の家を指さしていた。そのすぐ傍には、母親と思われる若い女性いた。
「本当だよ〜、マナカ君がおばあちゃんの幽霊がいるって言ってたー!」
「こら!」
「だって、だって」と言い続けながら男の子は母親に引っ張られて去っていった。
(おばあさんと一緒に住んでる?)
時計を見ると十七時近くだった。
(このままここにいればバレるし、明るいうちに帰らないと—―)
地図アプリで駅までのルートを検索し、急いで帰った。
こうして尾行一日目は終了した。
☆
尾行二日目。
「ごめん、今日も用事がある!」
「え、またぁー?」
「うん、明日は絶対帰ろ!じゃね!」
「はいはーい」
(用事作戦はこの先続けられないな。早く次の手を考えないと…)
有村は昇降口を出ると校門ではなく校舎裏の方に歩いて行った。
そのまま用具室の前まで行って、辺りを見回した。
仮面の時を思い出す。
でも今回は隠しているのではなく、何か探しているような感じだった。
彼はそのまま用具室の前を通り過ぎてグランドの方に行ってしまった。
「なんだったんだ、あれ」
用具室前で立ち止まっていたことが気になり、そのまま用具室の扉を開けて中に入る。
用具室と聞くと立派そうにみえるが、実際はただの物置きである。中にはグランド整備のラインカーや、ボールの空気入れなどが置いてあった。
「特に何もないな……」
その時だった。
ガチャンと音がした。
「えっ?」
気づくと扉が閉まっている。
「え、うそ……」
いくら扉を開けようとしても開かない。
用具室の扉の鍵は外からはかけられても中からはかけられないような作りになっていた。
「開けて!ねぇ!開けてよ‼︎」
扉を叩く。ドンドンという鈍い音だけが響く。
スマホを取り出すも、運悪く、電池切れとなっていた。
「うそぉ……」
奈緒はその場にへたり込むしかなかった。
三畳ほどの空間。そこに窓は無い。
「どうしよう……」
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