終わりよければ全てよし

 『終わりよければ全てよし』

 これは先輩の口癖だったと思う。


 先輩は結構サボり癖とかがあって、必要な時以外動こうとしなかった。

 本当に必要な時の行動力は凄まじかったけど。


 私がピンチだった時、助けに来てくれた先輩は本当に凄かった。

 いつも助けてくれた先輩は笑って言うんです。

 『終わりよければ全てよし。お前が助かったんだ。それでいいだろ。』って。


 今、私は先輩のその言葉を実感している。


――――――――――――――――――――


 私は先輩とお別れをした後、必死に努力した。

 昔、先輩が絵と裁縫がうまいって褒めてくれたのを思い出して、私はデザイナーの道に進むことを決めた。

 大学にも入っていたけど、途中で退学して、服飾関係の専門学校へと入学した。


 必死に勉強して卒業して、バイトとか株とかで稼いでいたお金を使って、デザイナーの会社を立ち上げた。

 最初は本当に大変だった。

 デザイナーの世界は新参者に厳しい。

 例えば、有名なデザイナーの娘とか何かしら実績を残している鳴り物入りとかじゃないと、なかなか売れない。


 それでも、私は必死にコツコツとデザイナーとしての活動をつづけた。

 そして、それがついに芽吹いたのだ。


 私のデザインはとある大規模な企業の目に留まった。

 ぜひ、その企業の受付嬢の制服のデザインを頼みたい、と。

 多分、何となくの試みだったんだと思う。


 それでも私は成功と幸運をつかみ取ることに成功した。

 私がデザインした制服はその企業の女性社員の話題となった。

 それだけでなく、SNSなどでも話題となり、面接に来る女性の数が増えたらしい。

 それからというものの、私の会社は会社の制服に関するデザインの依頼がよく来るようになった。


 10、20年とすぎ、私の会社はいわゆるブランドとなった。

 制服系のブランドというのは珍しい。

 それゆえに、こんなに早くブランド化できたのだと思う。


 株もまだ続けていたこともあって、私の手元にそれなりのお金があった。

 趣味はあまりなかったし、男を作る気なんてさらさらなかった。

 だけど、私は気づいたのだ。

 先輩との子どもが欲しかったなぁ、と。


 あの時の私は本当にバカだったと思う。

 もちろん、死んでしまった先輩との子どもなんて作り様がない。

 だから、私は養子を作ることに決めた。

 私の会社を継がせたかったこともあって、保護施設にいたおしゃれ好きの女の子を養子にした。


 でも、この後が本当に大変だった。

 娘は結構おてんばで、高校生になる頃には、ギャルになっていた。

 これが反抗期というやつか・・・と思っていたけど、ギャルになっても娘は私の言うことをきちんと聞いてくれた。

 

 娘もデザイナーとなり、しばらく経験を積んだ後、還暦に近づいていた私は早々に娘に社長の座を譲り、隠居することにした。

 そして、私は死んだ後、先輩にたくさん話をするために、いろんな経験を積むことにして、世界一周旅行を計画した。

 約7年にかけての大旅行。

 本当に様々な体験をした。


 そして、旅行から帰ってきてすぐ、今から1年前、還暦もすでに過ぎた私は脳出血で倒れた。

 だけど、場所が場所で、手術が不可能だと言われ、余命は後1年だと宣告された。


 娘は必死に私を助ける手段を探そうとしていたみたいだけど、私は落ち着いていた。

 なにせ、私はもう人生に満足していたのだから。

 やりたいことは全部できた。

 娘の結婚式も見れたし、孫の姿も見れた。

 本当にもう十分だった。


 既に体が動かなくなっていた私はここ半年はずっと寝たきりだった。

 娘は途中で私を助けることができるという医師を見つけてきてくれたけど、私はそれを断った。

 先輩に早く会いたかったから。


 こうして、余命宣告から1年が経つ。

 そろそろ私も静かに眠りにつくとしよう。


―――――――――――――――――


「お母さん・・・」


「おばあちゃん・・・」


「「「「おやすみなさい。」」」」


 娘、そして、孫。

 娘の夫にその親族に囲まれて、私は、息を引き取った。

 痛みもなく、穏やかな死。

 私は笑顔で旅立ったのだ。


――――――――――――――――


「おーい、起きろ。」


 声が聞こえる。

 ずっと私の記憶の中に刻まれていた先輩の声が。


「せん・・・ぱい・・・?」


 目を開くと、白い空間に記憶に残ったままの姿の先輩が立っていた。

 よくよく確認してみると、私の姿も若返って、先輩と会った時の頃の姿になっていた。


「おう、おはよう。いい人生だったか?」


「はい!」


「いい返事だ。さてと、ここじゃ話もなんだ。行くか。」


「どこにですか?」


 先輩は私の顔を見て微笑んだ。


「天国ってところにだよ。そこでお前の人生物語を教えてくれ。」


「分かりました!約束通り、い~っぱい話を用意してきましたからね!何年でも話してあげます!」


「そりゃ、楽しみだ。ほら。」


 先輩が伸ばしてきた手をそっと掴む。

 久しぶりの先輩。

 本当に変わらない。

 何十年ぶりの再会なのに、先輩はちっとも寂しそうじゃない。

 だから、つい私は・・・


「先輩・・・ちゅ♡」


「うぇ!?な、なにを?」


 私がキスをすると、先輩は顔を赤くして頬を押さえる。

 ほっぺにキスでここまで恥ずかしがる先輩を見て、なんだか可愛らしくてクスクスと笑ってしまった。


「愛してます、先輩♪」


「・・・俺もだよ、■■。」


「・・・真剣な表情で名前呼びはずるいです。」


 先輩からのふいうちカウンターに私も顔を赤くする。

 じとーっと睨むと先輩は楽しそうに笑った。


「■■も呼んでくれよ。俺の名前を。」


「分かりました。」


 先輩の名前を呼ぶ。

 それだけなのに、すごい緊張して、なんだか恥ずかしい。

 だから、照れ隠しで私は抱き着きながら、先輩の名前を呼んだ。


「●●●先輩!だーい好き!」


「うわっと。危ないぞ。」


「えへへ・・・受け止めてくれるって思ってました。」


 先輩は優し気に微笑んで、私の頭を撫でる。


「さぁ、今度こそ行くか。」


「はい!連れて行ってください!」


 私の人生・・・本当にいろんなことがありました。

 ですが、先輩らしく言うなら、『終わりよければ全てよし』。

 私の終わりは、先輩とともに過ごす最高で最幸で最愛の日々です。


―――――――――――――――――――――――――


 いかがでしたでしょうか?

 非常に久しぶりの投稿となりました。

 最近、恋愛系の漫画にハマっていたので、昔の作品を改稿してみた次第です。

 恋愛系はあまり得意ではありませんが、うまく書けたと思います。

 面白かったという方はぜひ、ブックマークやコメント、☆による評価をよろしくお願いします。

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【 第1回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト応募作品】終わりよければ全てよし 棚からぼたもち @tanabota7

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