第4話 赤いお化けの正体
「寒っ!」
電車から降りると、タイミング悪く風が吹いて余計に寒く感じる。
「もう暗い」
時間は十七時過ぎ。
ここは外灯が少ないから真っ暗だ。
駅を出て、駐輪場に向かう。
「あった、あった。早く出よう」
自転車を隠しながら鍵を開けた。
誰にも見られたくない。
塾から借りている自転車だけど、本当にこんなのしかなかったの?
この自転車は小学生低学年が乗っていたような自転車。
女の子が好きそうなアニメのキャラクターが自転車に描かれていて、とても可愛い。
可愛いんだけど、私が乗るには無理がある。
誰にも見られないように乗って駐輪場を出た。
いつも思うけど、とんでもなく小さい。
漕ぐと、膝がハンドルの位置まで上がるのってどうなの?
麗しき乙女の私が股を開けて漕がなきゃならないのよ。
あー、もう最悪。
相変わらず人が少ない道を進み、途中で路地に入る。
暗いし、怖いし、もっと最悪。
塾への近道だから仕方ないけど。
自転車を強く漕ぐ度にガコガコと錆びた音が響く。
田んぼの間にある畦道を通る。
また風が強くなった。
寒くて、暗い。周りに家がないから人の声も聞こえない。
そして、このお墓。
どうしてこんな場所にお墓があるのよ。
田んぼの横に普通作る?
墓をチラッと見て、塾へ向かった。
塾が終わると、また自転車をガコガコと音を立てて走らせる。
あー、また畦道。
もう前が殆んど見えない。自転車の弱々しいライトだけが頼り。
「ウーーー、ウーーー、ウーーー」
この声は何?
風の音?
「オェーー、オェーー、オェー」
どんどん近づいているような。
墓が見えてきて……
「お化けとか無理! 無理!! イヤァーー!!」
自転車を全力で漕いで、がに股とか関係ない。
早く駅に着いて、帰りたい。
畦道を出そうなところで顔を見上げて。
赤い顔が現れた。
「イヤァーー!!」
自転車の操作を間違えて、田んぼに突っ込む。
服が泥だらけ。今は関係ない。
ここから逃げないと!
「おーい、姉ちゃん。大丈夫か?」
「え?」
真っ赤なお化けが私を心配している。
違う、人だ。
酔っぱらって顔を赤くしたおっさん。
私、おっさんとお化けを間違えたの?
何それ、凄く恥ずかしい。
「ありがとうございます、助けていただいて」
「服が泥だけだな。大丈夫か?」
「ええ、まあ」
酔っぱらいのおっさん。
酒臭い。
「ウッ」
「どうしました?」
おっさんが私から離れて下を向く。
「オェー!!」
吐いてる。
待って、この声。
「大丈夫ですか?」
「さっきも吐いたんだけど、飲みすぎたみたいだわ。大丈夫、大丈夫。吐いたら、治まるから」
それは吐いたら、治まるよ。
私はおっさんの嘔吐をお化けの声だと勘違いしたのか。
服は泥だらけ。
赤いお化けかと思ったら、おっさんが吐いているところを見せられて。
うん、最悪の一日だった。
ショートショート集を作ってみた 川凪アリス @koneka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ショートショート集を作ってみたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます