異形母たちの子守唄 その九
一九二〇年六月二三日 帝都中久保町 夢幻座公演会場
◇
宮森と今日一郎が展開していた
その様を眺め、澄は連想していた。
頭骨だけが無い、囲瑳那の遺骨群を――。
状況に理解が追い付かないまま、澄に問う伊藤。
「うそだろ……。
なあ澄さん。
あんた、〈イサナ〉君に何したんだよ?」
「……ごめんなさい」
「ごめんなさいだって?
違うだろ!
自分の息子に何したのかって訊いてんだろうがあっ!」
澄が〈イサナ〉の為に拵えた握り飯には、爆発物が仕込まれていた。
その爆発物とは、マークI手榴弾 改である。
澄はマークI手榴弾 改の爆発に指向性を与え、〈イサナ〉の脳を瞬時に吹き飛ばしたのだ。
そう、痛みを覚える
澄の両腕を掴み揺す振る伊藤を宮森が
「やめないか伊藤 君。
澄さんにとっても辛い決断だった事は君にも解る筈だ!」
「そうだけど……そうだけどよ。
俺には理解できねえんだよ。
なあ、今日一郎 君からもなんか言ってくれよ!」
「伊藤さんに言っておく。
〈イサナ〉が成長した暁には、僕やお母さんの言う事さえ耳を貸さない怪物へと成り下がっていただろう。
お母さんの判断は、正しいと思っている……」
「まがりなりにも弟なんだろ。
何でそんなに冷静でいられるんだ?
なあ留袖姐さん、あんたはどうなんだよ。
もうひとりの母親代理として言う事はねえのか!」
伊藤が怒りの
「うふふ。
この御肉、とっても美味しそう……」
万媚は〈イサナ〉の屍肉を鉤爪で串刺し、
「てんめぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
『ドズン!』
「カハァッ⁈」
その場で
「言わんこっちゃない……」
「宮、森さん。
すんま、せん……」
播衛門は爆死した〈イサナ〉の肉片を
⦅こ奴めの繰り出した電撃の霊波長には憶えが有る。
はて誰じゃったか、上手く思い出せんわい……。
それにしても〈ショゴス〉の生命力は凄まじいの。
喰ろうてやりたいが
仕方あるまい。
あの幻魔めにくれてやるか……⦆
播衛門が〈イサナ〉の肉片を投げて寄越すと、異形の脚で器用に受け取り口へと運んだ万媚。
万媚も万媚で〈イサナ〉の遺体を次々と頬張り、
然も食事に夢中になっている所為か、大量の
人間の胃袋の限界はとっくに超えている筈の万媚。
だが、食事をやめる気配は一切ない。
それどころか精力的に咀嚼を繰り返し、まだまだイケルわよ……とでも言いそうな表情である。
「おい万媚、澄さんの前でいい加減にしろよ!」
未だ怒りの収まらない伊藤が
彼女は腹を抑えて背を逸らすと、苦しそうに呻き声を上げた。
「う、うぅ……ぅがはぁっ⁉」
着物の裾から破裂音と共に体液を飛び散らせた万媚は、ふわりと上空へ舞い上がる。
彼女が舞い落ちる際、着物の裾が上方へとはためいた。
婦女子の股を覗くなど、普段では絶対にしない宮森。
絶対とは言い切れないが、恐らくはやらないだろう伊藤。
そんな彼らでさえも、注視するしかなかった。
それは、万媚の放つ淫猥な魅力からだろうか。
違う。
異形が成長を欲している、そう判断したからに他ならない。
「……あ、あれは⁈」
「うへえ。
パックリ割れてらあ……」
図らずも宮森と伊藤が覗き視てしまった秘密の花園の奥は……くち。
巨大な口だ。
万媚は幾本もの触脚でメインディッシュにかぶり付き、
『モグモグ、クチャクチャ……』
遠慮の無い咀嚼音を辺りに鳴り響かせ、異形を喰らう異形。
平和で
その様は、
◇
異形母たちの子守唄 その九 了
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