異形母たちの子守唄 その十
一九二〇年六月二三日 帝都中久保町 夢幻座公演会場
◇
万媚は今しがた取り込んだ部分をそのまま細胞変化させ、次々と消化吸収器官を増設する。
彼女の下半身はみるみる肥大し、
その異様さに
⦅大規模な儀式なしで〈ショゴス〉と融和するとはな。
〈イドラ〉め、
確かに大昇帝 派が欲しがるのも無理はないか。
ふむ、ここらで
娘であり、伴侶でもある
「ふん、始末に追えぬと見て殺しおったか。
お主らしいの。
だが琳(澄)よ、この次はどうするのじゃ?
子殺しを貫き通すのか、それとも……。
まあ良い、時が来れば自らの
それから
それを過ぎたら問答無用で連れ帰るぞ。
ではな……」
その間にも万媚……〈イ婦人〉は
そして現れたのは、更なる変態を遂げた〈イ婦人〉。
下半身、と言っていいのかどうかは判らないが、太く長いぶよぶよの体節に様々な生物の手足が列を成して備わっていた。
下半身最前列の体節だけは上部に伸び、黒留袖を着た
〈イ婦人〉が下半身を
「シュアアアアァグルルウゥ……」
声を漏らす異形。
開帳した器官内部には、れっきとした
そう、この器官は先程まで〈イサナ〉を食い漁っていた巨大口器。
乙女は
「澄さん、そんなに悲しそうな顔はよしてください。
私の本体である寅井 ふじ もそう思っていますし、貴方の息子の御蔭でこの肉体を手に入れられたのですから」
「……ふじ さん。
あなたはもう、戻れないのですね」
澄の
「ええ。
感謝していますよ、澄さん……」
〈イ婦人〉の
そして、さも嬉しそうに
「ここでの仕事は終わったのですが、私はまだ物足りません。
宮森さん。
よろしかったら、これから私と踊ってください」
「……いいでしょう」
「ふふ、嬉しいわ。
でも、ここは少し狭過ぎますね。
外で御待ちしております」
『ジュバッ……』
〈イサナ〉を取り込んで得た巨体からは想像も出来ない程の
彼女は大
宮森の決意を感じ取り声を掛ける伊藤。
「やっぱ行くんすね。
宮森さん、ちょっと待ってて下さい」
伊藤は自身の
澄もそれに
「外法衆はここでの闘いや人攫いの証拠を隠滅する為、敷地内の全てを転移させるだろう。
居残っていては危ないから、澄さんを帝居まで護送してくれ。
伊藤 君、電車に乗る前に貰った切符はまだ持ってるかい?」
「ええ、捨ててませんけど……」
「良かった。
その切符を持ってさえいれば、〈ザイトル・クァエ〉の放出している花粉で催眠状態になったりはしない筈だ。
澄さんを頼む……」
伊藤が自身の任務を自覚し
息子の体温が伝わったのだろう。
澄は顔を上げ、涙を
「宮森さん、少しお待ちください……」
澄は左腕の
彼女と今日一郎は共に霊力を高揚させ、先程の
今度は宮森に触れ、その意志を伝える今日一郎……。
彼らの意思を理解した宮森は、澄から
「……そう云う事だったのか。
今日一郎、澄さん、ありがとう。
そして、
去り行く宮森に笑顔を向ける伊藤と母子。
彼らの笑顔で、宮森の覚悟は決まった。
〈ブアク〉との戦闘で損傷した箇所を再生させ、
彼の荷物は、
余りの大荷物に普通は戦闘どころではない筈だが、その問題は直ぐに解決した。
宮森が霊力を高揚させると、彼の肩部装甲に加え後背部装甲も分割され始めた。
分割されたそれは細長い形状へと組み上がり、先端部には多関節で構成された五指が備わっている。
肩部左右からそれぞれ二本、後背部左右からもそれぞれ二本。
総勢八本……いや、
そう、宮森の肩部・後背部装甲が変形したのは
着想元は、あの
ただ相違点も有る。
天芭の
宮森のそれは天芭のものとは異なり、左肩装甲に左右両腕、右肩装甲に左右両腕となっている。
後背部に展開している
自身の物と合わせて
そして
「オオオオオオオオオォォン……」
狂おしくも
〈ショゴス〉で拵えた混ざりモノの複製とは云え、自らの息子を殺した澄。
魔人達よる望まない妊娠と出産だったとは云え、自らの息子を喰らった ふじ。
禁忌を犯した彼女らが許される事は無い。
だが、それでも母たちは
図らずもこの
◆
異形母たちの子守唄 その十 了
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