炸裂、◯◯チ! その四
一九二〇年六月二三日 帝都中久保町 夢幻座公演会場
◇
伊藤が退場門付近へ向かうと、〈ブアク〉を
「あ、宮森さん!
怪我ないっすか?」
「ふた口ほど装甲を
ふたりには心配をかけたね」
「俺たち大女を相手にしてんすけど、ちょっとお手上げ状態っす」
「そのようだね」
状況を把握した宮森は澄の許へ急行し、中央広場前で彼女と合流を果たした。
慌てた様子の澄が進言する。
「宮森さん、伊藤さん。
ヤツの進路から離れて!」
『……ズン……ズン……』
〈ザイトル・クァエ〉の花粉霞をくぐり抜け地響きと共に姿を現したのは、歩く巨大鬼。
但しその姿は、当初の物とは大違いだ。
来場者を楽しませる
その威容に、覇気の抜けた感想を漏らす伊藤。
「はは……。
あんなデカブツが立って……しかも歩いてやがるぜ……」
「ウララがたってる!」
〈巨大
車椅子の少女が歩行訓練の末に立ち上がった名
一方の気狐は、〈巨大
「なー蝉丸。
どうーやって立ってんの、アレ?」
「
あれ程の大質量を支えるには木材や竹材では強度不足ですし、鋼材では柔軟性が無さ過ぎます。
ですから、【
「あー、工作専門の爺さんね。
オレらの着てる軍服も猩々が作ったんだっけ?」
「耐熱装備の技術自体は
どうやら外法衆は、工業知識に秀でている
〈巨大
⦅あれ程の肉塊がどうやって直立できるのか不思議だったけど、秘密は籠細工の方だったか。
なるほど、骨格を形成している
いま宮森の脳内には、炭素原子が網目状に結び付いて筒状になった物質……
そのカーボンナノチューブで造られた籠細工が内骨格となり、〈巨大
「ウララがあるいてるよー!」
進撃を始めた〈巨大
その隣では、気狐が蝉丸を質問攻めにしている。
「ヤツらの銃弾、あの大女に効かなかったよな。
ありゃどーなってんだ蝉丸?」
「
彼女はその炭を体内に取り込んで、銃弾を防げるほど体細胞を
「でもよー、オレが炭食っても銃弾防げる身体にゃならねーよな。
どーなってんの?」
「気狐には言ってませんでしたね。
その答えに気狐は
「はあー⁈
普通の人間じゃあんな巨大化できる訳……。
いや……〈
その理由は、〈ショゴス〉!」
「大当たり。
そう、〈ショゴス〉との融合に成功した実験体が
この前、帝都の地下競艇場に僕らが潜入したのは知ってますね。
その際に〈深き者共〉の死骸を入手したんですよ。
〈深き者共〉の体細胞には、当然〈ショゴス〉が含まれています。
翁の研究の一つに、〈ショゴス〉の
「あー蝉丸、長くなりそうだから理屈はもういいぜ。
要点だけ頼むわ」
「では要点だけ。
彼女は云うなれば、〈
〈
で、彼女が解放できた能力はと云うと、身体の再生と……」
〈
「再生は知ってるっつーの。
その他にも何かあんだよな?」
「はいはい。
気狐にも解るように説明すると、炭を分解できるのです。
それもかなり微細に。
その微細な炭を
実は、猩々が作った巨大籠細工も同じ物質です。
しかし、それを工業的に作るには高温での加工が必須との事でした」
「へー。
大女はその炭素膜とやらを高温加工なしで作れると」
「ええ。
但し、炭素膜はそのままでは液体に溶けてくれません。
液体に溶けて貰わないと柔軟な加工は出来ませんからね。
もうひと工夫必要になります」
科学的説明で頭がぱんぱんだろう気狐に、蝉丸が最後の追い込みを掛ける。
「その工夫とは……お茶です」
「お茶って……飲むお茶⁈」
「そう、そのお茶ですよ。
お茶に含まれるある物質が、炭素膜を
この発見で炭素膜の研究が進み、今回の巨大籠細工が製作されました。
そのお蔭で、
「あんな
あ、もしかしてそのお茶って……」
蝉丸が
「カミトリー 播衛門 濃いめ!」
表の歴史では、一九二九年に日本の女性研究者が茶カテキンの分離を成功させたとしている。
又、緑茶によるカーボンナノチューブの可溶化実証は二〇〇〇年代を過ぎてからだ。
詰まり一般公開される科学研究の成果は、九頭竜会を始めとする魔術結社の
◇
炸裂、◯◯チ! その四 了
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