炸裂、◯◯チ! その二
一九二〇年六月二三日 帝都中久保町 夢幻座公演会場
◆
見世物小屋に入るふたりだったが、敵が襲撃して来る気配は無い。
只、珍品
成人男性に良く似た造形の奇木が僅かに動き、そして喋る。
「助けてくれ……。
気が狂いそうだ……」
澄は喋る奇木に対して困惑の念を抱いたものの、直ぐ様ウィンチェスターM1912ソードオフ
「〈ミ゠ゴ幻魔〉なの?
伊藤さん、離れていてください!」
「わっかりましたー。
ひと思いにやっちゃって下さーい……って言いたいとこなんすけどね。
澄さん、コイツなんか言いたそーっすよ」
伊藤は高札に記してある奇木の来歴を読み上げた。
「えーっとなになに……。
ふたりが警戒し近付くと、奇木こと〈ムンバの化木人〉は苦しそうに語り始めた。
「おらは
おらにはわかるんだ。
あんた達は、おらを楽にしてくれるって。
だから頼む……」
[註*
九頭竜会陸軍派がその後ろ盾である(作中での設定)]
こちらを襲う意思は無いと判断したふたりは、〈ムンバの化木人〉と思念での会話を試みる。
『俺は伊藤ってもんだ。
こっちの声は聞こえてるかい?
……良し、聞こえてるみてーだな。
喋んのもきつそうだから、こっからの会話は心に思い浮かべてくれりゃーいいぜ。
じゃ、単刀直入に訊く。
なぜ俺達を襲わない?』
『襲うも何も、身体が樹木みてえになっちまって殆ど動けねえよ……。
それに、動けたとしても奴らに協力する気はねえ……』
『あんたのいう奴らってのは、九頭竜会の事だな。
で、九頭竜会はあんたに何をした?』
『借金で首が回らなくなったおらを
お蔭でおらはこんな目に……』
〈ムンバの化木人〉の話に疑問を抱いた伊藤は、ここで澄に問いをぶつける。
「澄さん、目の前のコイツは幻魔なんすよね。
幻魔になる前の記憶が残ってたり、人間並みの思考が可能なんすか?」
「息子の精神内に潜った経験のあるわたしには判ります。
この人はなりかけのようですね」
「なるほど。
幻魔になる途中ってコトね。
だからいくらか正気を保ってると。
にしてもっすよ、動けない幻魔ってのもいるんすね」
「幻魔は
そして、その喰らい方は幻魔ごとに千差万別。
この人は今もって正気を保っているようですし、わたしとしては早く解放してあげたいのですが……」
澄の慈悲が直接伝わったようで、〈ムンバの化木人〉は感激している様子。
『ああ、ありがたい。
礼として、おらが知ってる事を全部話すよ……』
『さっきここを訪れた退場門係の
奴には注意しろ……』
『詳しく頼むぜ』
『どういう仕組みなのかは知らねえが、奴は何でも食う。
好き嫌いがねえって話じゃねえぞ。
どんな仕掛けかわからんが、奴は獣の骨から人間の糞尿から、それこそ岩石だって食うんだ。
そして、どんどんでっかくなる』
『今でも充分デカいけどな。
でもよ、あれ以上デカくなったら自分の体重ささえ切れねーんじゃねーの?』
〈ムンバの化木人〉が思念で熱弁を振るう。
『そうだ。
だからあの巨大な籠細工がいる。
あの籠細工は普通じゃねえ。
妖術使い共が造った代物だ。
おらに妖術の事はわかんねえが、たいそう丈夫な代物だって事はわかる』
『ただデカいだけなら俺達の敵じゃねーんだがよ。
あの大女に何があるってんだ?』
『
ダチ公を食った後じゃあ、殺すのは難しいかも知れん……』
『石像がダチ公って……。
そいつはお前さんの隣に飾られてたらしい、〈ゴーツウッドのノーム〉ってヤツか?
できるだけ詳しい説明を頼むぜ……』
◆
〈ムンバの化木人〉との会話で
そろそろ〈ムンバの化木人〉に安息を
『どうか、おらとダチ公(〈ゴーツウッドのノーム〉)の
『その願い引き受けた。
じゃ、いい夢見ろよ!
って、幻魔は夢の世界の住人だけど……』
『あなたはきっと、天上の世界で幸せになれます。
安心してお
〈ムンバの化木人〉の願いを聞き入れ別れを告げたふたり。
伊藤が〈ムンバの化木人〉から離れると、澄のウィンチェスターM1912ソードオフ
爆裂弾が〈ムンバの化木人〉を容赦なく吹き飛ばす。
すると樹液だろうか、赤い液体が派手に飛び散った。
樹液は返り血の如く澄の
そして床に転がった〈ムンバの化木人〉の頬にも、同じ色の液体が伝った――。
◆
炸裂、◯◯チ! その二 了
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