炸裂、◯◯チ! その二

 一九二〇年六月二三日 帝都中久保町 夢幻座公演会場





 うららが巨大鬼ことウィッカーマンに向かった経路を伊藤と澄も辿る。


 見世物小屋に入るふたりだったが、敵が襲撃して来る気配は無い。

 只、珍品区画コーナーで展示されている奇木に文字通り……になってはいけないのだが、動きが有った。


 成人男性に良く似た造形の奇木が僅かに動き、そして喋る。


「助けてくれ……。

 気が狂いそうだ……」


 澄は喋る奇木に対して困惑の念を抱いたものの、直ぐ様ウィンチェスターM1912ソードオフタイプを構える。


「〈ミ゠ゴ幻魔〉なの?

 伊藤さん、離れていてください!」


「わっかりましたー。

 ひと思いにやっちゃって下さーい……って言いたいとこなんすけどね。

 澄さん、コイツなんか言いたそーっすよ」


 伊藤は高札に記してある奇木の来歴を読み上げた。


「えーっとなになに……。

 阿弗利加アフリカ公果コンゴ盆地で採集してきた〈ムンバの化木人かぼくじん〉、だって」


 ふたりが警戒し近付くと、奇木こと〈ムンバの化木人〉は苦しそうに語り始めた。


「おらは金如苑きんにょえんに騙されて、こんな姿に……。

 おらにはわかるんだ。

 あんた達は、おらを楽にしてくれるって。

 だから頼む……」


[註*金如苑きんにょえん゠盟治初期に設立された新興宗教団体。

 九頭竜会陸軍派がその後ろ盾である(作中での設定)]


 こちらを襲う意思は無いと判断したふたりは、〈ムンバの化木人〉と思念での会話を試みる。


『俺は伊藤ってもんだ。

 こっちの声は聞こえてるかい?

 ……良し、聞こえてるみてーだな。

 喋んのもきつそうだから、こっからの会話は心に思い浮かべてくれりゃーいいぜ。

 じゃ、単刀直入に訊く。

 なぜ俺達を襲わない?』


『襲うも何も、身体が樹木みてえになっちまって殆ど動けねえよ……。

 それに、動けたとしても奴らに協力する気はねえ……』


『あんたのいう奴らってのは、九頭竜会の事だな。

 で、九頭竜会はあんたに何をした?』


『借金で首が回らなくなったおらをさらった挙句あげく、恐ろしい妖術の実験台にしやがったんだ!

 お蔭でおらはこんな目に……』


〈ムンバの化木人〉の話に疑問を抱いた伊藤は、ここで澄に問いをぶつける。


「澄さん、目の前のコイツは幻魔なんすよね。

 幻魔になる前の記憶が残ってたり、人間並みの思考が可能なんすか?」


「息子の精神内に潜った経験のあるわたしには判ります。

 この人はのようですね」


「なるほど。

 幻魔になる途中ってコトね。

 だからいくらか正気を保ってると。

 にしてもっすよ、動けない幻魔ってのもいるんすね」


「幻魔は人間ヒトはくを喰らう存在。

 そして、その喰らい方は幻魔ごとに千差万別。

 この人は今もって正気を保っているようですし、わたしとしては早く解放してあげたいのですが……」


 澄の慈悲が直接伝わったようで、〈ムンバの化木人〉は感激している様子。


『ああ、ありがたい。

 礼として、おらが知ってる事を全部話すよ……』


 情景イメージに音声を乗せて伝送して来る〈ムンバの化木人〉。


 相槌あいづちは伊藤が務める。


『さっきここを訪れた退場門係のうららって大女。

 奴には注意しろ……』


『詳しく頼むぜ』


『どういう仕組みなのかは知らねえが、奴は何でも食う。

 好き嫌いがねえって話じゃねえぞ。

 どんな仕掛けかわからんが、奴は獣の骨から人間の糞尿から、それこそ岩石だって食うんだ。

 そして、どんどんでっかくなる』


『今でも充分デカいけどな。

 でもよ、あれ以上デカくなったら自分の体重ささえ切れねーんじゃねーの?』


〈ムンバの化木人〉が思念で熱弁を振るう。


『そうだ。

 だからあの巨大な籠細工がいる。

 あの籠細工は普通じゃねえ。

 妖術使い共が造った代物だ。

 おらに妖術の事はわかんねえが、たいそう丈夫な代物だって事はわかる』


『ただデカいだけなら俺達の敵じゃねーんだがよ。

 あの大女に何があるってんだ?』


うららがここで食ったダチ公……石像がきもだ。

 ダチ公を食った後じゃあ、殺すのは難しいかも知れん……』


『石像がダチ公って……。

 そいつはお前さんの隣に飾られてたらしい、〈ゴーツウッドのノーム〉ってヤツか?

 できるだけ詳しい説明を頼むぜ……』





〈ムンバの化木人〉との会話でうららの能力を知る事が叶い、攻略の糸口まで掴んだ澄と伊藤。

 そろそろ〈ムンバの化木人〉に安息をもたらさなくてはならない。


『どうか、おらとダチ公(〈ゴーツウッドのノーム〉)のかたきを討ってくれ……』


『その願い引き受けた。

 じゃ、いい夢見ろよ!

 って、幻魔は夢の世界の住人だけど……』


『あなたはきっと、天上の世界で幸せになれます。

 安心しておきなさい……』


〈ムンバの化木人〉の願いを聞き入れ別れを告げたふたり。


 伊藤が〈ムンバの化木人〉から離れると、澄のウィンチェスターM1912ソードオフタイプが火を噴いた。


 爆裂弾が〈ムンバの化木人〉を容赦なく吹き飛ばす。

 すると樹液だろうか、赤い液体が派手に飛び散った。


 樹液は返り血の如く澄の生体装甲バイオアーマーに付着し、毒々しい点描画を形成する。


 そして床に転がった〈ムンバの化木人〉の頬にも、同じ色の液体が伝った――。





 炸裂、◯◯チ! その二 了

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