第一節 ミヤモリ、秘書雇うってよ
ミヤモリ、秘書雇うってよ その一
一九二〇年四月 宮森の下宿先
◇
彼らは宮森の住む下宿にやって来ていた。
宮森は幹部昇格に
ふたりが玄関をくぐると、
「宮森さんおかえり。
あ、その方が伊藤さんね。
さ、上がって上がって」
ふたりが一階の居間に入ると女将が茶を持って来る。
宮森も持参した茶菓子の包み紙を
早くも饅頭を
「ここで下宿やってる【
「どーも、伊藤 開智っす。
女将さん、これからよろしくお願いしまーす」
「あいよ。
宮森さんと違ってちょっとヤンチャそうに見えるけど、男はそれぐらいじゃなきゃね~。
それに宮森さん、お弟子さんこしらえるのはいいけどさ。
いい
「い、いえ。
去年に大怪我してそれどころじゃなかったですよ。
女将さんも知ってるでしょうに……」
女将の歯に
女将が最後の饅頭を口に入れた所で、ふたりは二階の部屋へと移った。
◇
宮森は肉声でこの辺りの地理を伊藤に教える振りをし
『伊藤 君には、主に
後、自分が動けない時の代理としての活動かな。
あ、君の場合は読み書きが最優先か』
『そーっすよねー。
俺むつかしい漢字とか解んねーっすもん。
あー、
『それは君の
それに、
『え⁈
シショーってそんな凄かったの?』
ここで明日二郎も会話に加わる。
『オイラにかかりゃあ、読み書きソロ盤なんでも御座れよ!
ま、イトウはソロ盤だけは得意らしいから、オイラの手を
『それは頼もしい……んだけど、シショーが頭ん中にいるだけで妙に
どうしたら収まんのかね?』
『ダイジョウブ!
イトウはまだオイラの存在自体に慣れてないだけだ。
慣れたらなんとも思わなくなるから安心しろ』
『そういうもんかねー。
未だにその見た目が
半信半疑の伊藤に宮森が口添えする。
『少しでも早く
伊藤 君、いいかい?』
『俺は今まで飲まず食わずん時もけっこーありましたからね。
それぐらいどーって事ないんすけど、頭ん中でシショーが暴れちゃってます……』
『な⁈
ミヤモリに続きイトウも一日一食だと!
ミヤモリが療養してた時なんか、マズイ病院食でガマンしてたのに……。
認めん、オイラは断固認めんぞ!』
『明日二郎、お前はあの時の明日二郎じゃないだろ。
もしこれ以上不満を述べるようなら、こんど
そうなったらお前、食の
『い、イヤだ~。
それだけはご勘弁を
実はコノ明日二郎。
去年 宮森に
上鳥居 一族が奉じている邪神にはほぼ感情が無い。
その劣等
維婁馬は〈幻魔アスジロウ〉が生まれ出る際に都合の良い記憶と感情を与え、もう一つの人格である今日一郎に
食事の件が一段落した所で、宮森が明日二郎に警戒を願い出る。
『明日二郎、周囲に監視の目がないか見張っててくれ』
『あいよっ!』
幹部に昇格した宮森はともかく、九頭竜会に入ったばかりの伊藤には専属監視員が付いていても不思議ではない。
何を隠そう、ここの女将も最近まで宮森の監視役だったのだから。
宮森は背広の内
『伊藤 君が協力してくれる代わり、自分は君の身を護らねばならない。
これはその
『ありがたく頂きまーす。
でも、俺の身を護るって……』
『伊藤 君、
何の変哲もない一般的な
『何すかこれ?
やけにホコリっぽいっすけど……』
『
『カビ⁈
宮森さん、これはなんかの冗談っすか?』
『黴、正確には菌類と
今その中に入っているモノが、〈ミ゠ゴ〉と呼ばれる太古の菌類だよ。
伊藤 君、〈ミ゠ゴ〉と云うのはね……』
宮森は
だが闘いが終結した後、彼は維婁馬の祖父であり父でもある上鳥居
その
現在では、〈ミ゠ゴ〉の能力を有効活用するべく
〈ミ゠ゴ〉の説明を聴き終えると、伊藤に疑問が
『その〈ミ゠ゴ〉を何で俺に?』
その問いの答えとして、宮森は
場景の上映中、宮森は〈ミ゠ゴ〉を利用した
これと関係が有るらしい。
『君の身を護ると言っておき乍ら恐縮だけど、実験に協力して欲しいんだ』
『まあ、俺の大将は宮森さんすからね。
お
で、煙草入れに入ってるコレがさっきの映像とどう関係するんです?』
『自分は〈ミ゠ゴ〉の性質を利用して、生体装甲なる物を発案した。
先ほど送った映像の通り、生体装甲は魔術戦闘に際して有効だと思われる。
でも重大な欠点が有ったんだ』
『ああ、敵
『そうなんだよ。
生体装甲を生成するには、〈ミ゠ゴ〉の胞子は当然として栄養や水も必要なんだ。
それを
その
『もしかしてコレ、その〈ミ゠ゴ〉って奴の胞子と栄養分っすか?』
『さすが伊藤 君、実に飲み込みが早い。
そう、「生成するのに苦労するんなら、生成できる分を前もって生成しとけばいじゃないか!」と云う発想だね』
『なるほど。
で、俺が使えるんすか?』
伊藤の思念が不安に染まる中、説明を続ける宮森。
『実は、明日二郎を君に憑かせているのはその為でもあるんだ。
君は魔術に関しては
君にそれをやらせるのは本意じゃない。
だから、君の霊力を引き出す手伝いを明日二郎にやって貰うんだよ』
『要は、細かい事はみんなシショーがやってくれるんすね』
『そう考えて貰っていい。
考えられる使用場面は、緊急事態への対処、
くれぐれも無茶な戦闘行為には走らないでくれよ』
『わっかりましたー。
シショー、お願いしまーす』
誠意の見られない伊藤の御願いに、明日二郎シショーは
『何が「シショー、お願いしまーす」だ。
オイラがオペレーティングシステムやらサイコ◯レームやらになってやるのだぞ。
もっと喜ばんか、このバカ弟子が~!』
『シショー、精神感応でも何言ってるか解んねーよ……。
で、俺にはどんな影響があるんだ?』
『シガレットケースに入ってんのは〈ミ゠ゴ〉の胞子と生成に使用する最低限の栄養分だけで、水分は別途必要なのよ。
そんで水分を含めた生成術式を
メッチャ疲れる事には変わらんが、その分の稼働時間は稼げる訳だ。
ただ、ミヤモリ以外の
『なんかシショーが不穏な事言ってますけど……。
宮森さん、そこんトコどーなんすか?』
◇
ミヤモリ、秘書雇うってよ その一 了
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