ミヤモリ、秘書雇うってよ その二
一九二〇年四月 伊藤の下宿先
◇
伊藤の心配を予想していた口振りで話を進める宮森。
『いま伊藤 君に渡した〈ミ゠ゴ〉の胞子は、生体装甲構築と身体能力増強に機能を絞ってある。
さっき視せた映像にあったような、蜘蛛糸の生成や〈ミ゠ゴ〉の持っている精神支配能力などを使う事は出来ない』
『なら大丈夫そうだ。
俺だってなんもできず死ぬだけってのはごめんですし、敵さんにひと泡吹かせてやれるとなりゃー
それにしても宮森さん、〈ミ゠ゴ〉の胞子を水で戻す方法なんてよく思い付いたっすね』
『この前の競艇で海藻お化けのような奴が居ただろう。
報告では君も目撃しているらしいけど』
『見たっすよ。
その海藻お化けが、〈ミ゠ゴ〉の胞子を水で戻す事に関係あるんすか?』
海藻お化けとは、地下競艇場襲撃事件の際に暴れ回った〈
その際〈
〈
採取した〈
当然 宮森の方でも〈
自身の立てた成果であるからか、得意
『その海藻お化けは〈黒い
粉々になっても栄養と水が有れば再生する。
この生態に着想を得て造ったのが、
後はソレの成長を
『全くもって
さすが九頭竜会に
『
その生体装甲だって、霊力障壁を展開していなければ防げるのは拳銃弾ぐらいだ。
小銃弾や近距離で発射された散弾までは防げないからその
それに、君に与える生体装甲は自己再生能力を持っていない。
修復が望めない訳だから、損傷が過ぎると組織は
魔術攻撃だけでなく、銃器その他の攻撃にも注意してくれ。
後は、一定時間経過するだけでも同様に組織の枯死が起きる。
それに〈ミ゠ゴ〉の胞子と栄養分を乾燥させた物……自分は【
二、三個作っただけで、半日以上はまともな霊力操作が出来ない。
だから無駄
『まあ、宮森さんみたいな活劇は無理だと。
おいそれとは使えないみたいだし、最後の切り札として取っときます。
それで、生体装甲を展開したり解除する時はどうするんすか?』
三対の
『通常はシガレットケースを開けて霊力を
オイラがイトウの霊力で水を生成し、電気でもって〈ミ゠ゴ〉の胞子を活性化させる。
もし水の確保が出来る場合は、その分の霊力が節約できてオトクだ。
んで、伊藤の意識が無い場合なんかはオイラの判断で緊急発動する事もあり得る。
解除方法は基本念じるだけでいいが、脅威対象が残っている場合はオイラの判断で解除しない場合も有るから覚えておくよーに』
『なるほどね。
シショーが
こりゃ楽でいーや。
でも、肝心の煙草入れ敵に取られたらヤバイっすよね。
特に敵の魔術師連中が俺の代わりに使っちまったら……』
『ガハハハッ、その点は心配御無用なり。
ミヤモリがオ得意のオ勉強でオ解決したぞ!』
『オ解決って、どんな方法なのか見当もつかねーけど……』
珍しく自信に
『
詳細は省くけど、霊紋は他人と同じものは無いから確実に本人を識別できる。
それを認証作業に用いれば、たとえ〈ミ゠ゴ〉の胞子を奪われたとしても他人が生体装甲を纏う事は出来ない。
実はね、今日ここに来たのはそれが理由なんだよ』
『えっ⁈
じゃあ、今からその霊紋ってヤツ取るんすか?』
『そうだ。
じゃ明日二郎、伊藤 君から
『ニャニィ⁈
『お前は知らないかも知れないけど、
もしお前が播衛門 翁に操られた場合、伊藤 君の霊紋を何らかの方法で複製してしまう可能性が有る。
その為の防犯措置だ』
『オイラ信用ないのね。
トホホ……』
明日二郎が伊藤の脳中から離れると、宮森は伊藤の手を取り
回線から締め出された明日二郎はふたりに背を向け、窓の外を観ながらやさぐれている。
そんな明日二郎を
宮森は以前、外法衆正隊員のひとり
その際の記憶と感覚を呼び起こし、体内に巣食う〈ミ゠ゴ〉で正確に再現した。
脳細胞と融合している〈ミ゠ゴ〉の御蔭で、宮森の霊力操作は
そして伊藤の霊的特質、略して霊質の
宮森は青白く光る伊藤の右手人差し指を取り、
するとその光は〈ミ゠ゴ〉胞子細部まで
『……伊藤 君、いま君の霊紋情報を〈ミ゠ゴ〉の胞子に入力した。
次に、自分の霊力で〈ミ゠ゴ〉の胞子に反応を促してみる。
それに反応せず、君の霊力にのみ反応したら成功だ』
『わっかりましたー』
本当に伊藤が解っているのか定かではないが、
『……良し。
反応は無いな。
伊藤 君、次は君の霊力で試す』
宮森は伊藤の脳内に在る
そして、ほんの僅かな量を〈ミ゠ゴ〉胞子へと送り込み反応を
『大丈夫、試験は成功したよ伊藤 君』
『ふーっ、特になんも無かったっすね。
あ、それでいいんだっけ……』
試験が成功してふたりが
「宮森さんに伊藤さ~ん。
のど渇いてると思ってお茶もって来てあげたわよ~。
あれまっ⁈
そうなの~、おふたりはそんな関係だったのね~。
宮森さんに全く女っ
お盆ここに置いとくから、後はごゆっくり~~~♥」
事態に気付いた宮森が
『明日二郎、何で教えてくれなかったんだ!
お前なら女将さんが階段上がるの判ってた
あ、もしかして伊藤 君から追い出されたの根に持ってるのか?』
『うっせーな!
オイラにも判んなかったんだよ!
何でもかんでもオイラに頼るなってんだ。
このバカミヤモリめ!』
『あのな~、お前の所為で自分達が
自分は帝居に引っ越すからまあいいけど、伊藤 君はこれから……』
『まあまあ宮森さん落ち着いて。
シショーも判んなかったって言ってるし、これで手打ちにしましょうーや』
[註*
身分差や年齢差といった明確な上下関係の下で形成され、それらがない真性同性愛とは異なる]
宮森は性的話題について酷く敏感である。
それと云うのも、九頭竜会に入会して以来性別年齢を問わず乱交を強要されるからだ。
いくら
『……すまん明日二郎、さっきは言い過ぎた。
で、女将の接近に気付かなかったのは本当なんだな?』
『誓って言うが、オイラは気付かなかったぜ。
これがお前さんのいう、ジイ様(播衛門)に操られてるって事か?』
『それは判らないけど……。
まあ、そんな事もあるか』
『はいはい!
湿っぽいのはこれで終わり。
女将さんの持って来た茶でも飲んで一服しましょーや』
伊藤の
明日二郎は伊藤の脳中にサッサと潜り込み、宮森は違和感を
◇
ミヤモリ、秘書雇うってよ その二 了
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