ザ・ランブルクリーチャー その九
一九二〇年四月 帝都 地下競艇会場
◆
大槻 夫妻が放水路の
会場に張られた銀盤は、巨大化を済ませた〈
〈
『殿下、海から裏切り者共が攻め上って来ています。
ここは私が引き受けますので、殿下は多野 教授の許へと御急ぎ下さい』
『頼む』
瑠璃家宮は神力を使った為、既に身体の一部が石化しつつあった。
それを治療するには、多野にやって貰うより他ない。
逃がした嘯吹の事も気に掛けているようだが、ここで神力を使い過ぎても良い結果には繋がらないと判断したのだろう。
素直に撤退を決意する。
瑠璃家宮が会場から姿を消すと、〈
『合いの子とは珍しいな。
今すぐ破壊行為と妨害音波を停止して我らの軍門にくだれ。
そうすれば今迄の無礼は無かった事にしてやる』
『冗談だろう?
お前達は何も解っていない。
……いや、解った上でやっているのか。
このままではまた
現に百年前もそうだったじゃないか!』
『我々は勝利するまで何度でもやる。
で、その旧神を
文句が有るのなら掛かって来い。
〈【ラニクア・ルアフアン】〉よ!』
『言われなくとも!』
〈
余りに大き過ぎると狭い会場内で動けなくなるからだ。
右腕の
〈ラニクア・ルアフアン〉の尾鰭は魚類のそれとは違い、水棲哺乳類に見られる上下
体毛や鱗は無く滑らかな体表で、背面正中線上には皮膚の
そして備わった
そう、〘どっちつかず〙こと〈ラニクア・ルアフアン〉は
〈
〈ラニクア・ルアフアン〉は両腕に、〈
〈ラニクア・ルアフアン〉は全長二メートル程。
〈
もし不用意に近付こうものなら、鉗脚から発せられる衝撃波で気絶させられてしまうからだ。
そうならないよう、〈ラニクア・ルアフアン〉は
一方の〈
闘いは膠着状態に陥ったかに思われたが、〈
⦅奴の動きが鈍くなって来たぞ。
息が続かなくなって来ているな。
所詮は鯆か……⦆
〈ラニクア・ルアフアン〉は鯆型。
当然肺を使っての呼吸が必要なので、その瞬間を狙えば良いのである。
恐らく全速で遊泳し、〈
追う〈
だがそれを逃す〈
〈
水中で閃光が瞬くと無数の
周囲の水を巻き込み水流に不規則な変化を与える。
〈
発生した渦に引っ張られ満足に遊泳できない。
加えて、
その隙を見逃さなかった〈
〈ラニクア・ルアフアン〉に急接近して
〈ラニクア・ルアフアン〉を二枚
身体が満足に動かないのだ。
息を詰まらせたかのような表情で身体の異常を探す〈
異常は直ぐに見付かる。
〈
⦅何だこの触手は⁈
……まさか、さっきばらばらにしてやった海藻
鰓の
そう、文字通り息を詰まらせていたのだ。
それに引き換え〈ラニクア・ルアフアン〉は、水面での息継ぎを安全に終える。
〈
当然〈
〈
「何故だ。
なぜ海藻擬きが今になって復活する?」
『お前の行動が招いた事だよ』
苛立つ〈
『お前の云う海藻擬きは、非常に再生能力が強い生物らしい。
でも、再生するには条件が足りなかった。
だからさっきまでばらばらの状態で水中を浮遊していたんだろう』
「条件、だと……」
『そうだよ。
お前も良く知っているだろうに。
先ずは水。
ここは水中なのでこれは問題ない。
次に栄養分。
これが海藻擬きにとっての問題。
ここの栄養分は、お前が巨大化する際に吸収したからほぼ
しかし海藻擬きはその後栄養分を見付ける。
そう、お前とボクだよ』
「何だと?」
『栄養面はこれで解決。
残るは電気刺激だね。
細胞を活性化し成長させるには電気刺激が不可欠』
「そんなものどこで……。
まさか鉗脚を噛み合わせた時の!」
〈ダゴン〉である益男は、普段電気技師の仕事をしている。
その所為も有ってか、自身の失態に気付いたようだ。
『そう、お得意の鋏で衝撃波を出す際に発生する放電現象さ。
確か……プラズマって云ったかな。
その放電現象で海藻擬きが元気を取り戻したんだろうね』
「な、なら条件は同じ筈!
なぜ俺にだけ海藻擬き、がっ⁈」
〈ラニクア・ルアフアン〉が〈
『それは呼吸だよ。
ボクは肺呼吸でお前は鰓呼吸。
お前が鰓で水を取り込むたびに、海藻擬きが鰓に付着したのさ。
対してボクは肺呼吸。
水から酸素を得ている訳じゃない。
それに、鯆は水を殆ど飲まないんだ。
〈深き者共〉の長ともあろう者が、そんな事も知らなかったのかい?』
〈ラニクア・ルアフアン〉が〈
『今は仲間の救出が最優先だ。
時間稼ぎさせて貰うよ』
〈ラニクア・ルアフアン〉は
頸動脈を断たれた〈
◇
ザ・ランブルクリーチャー その九 了
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