泡沫の記憶 その五
一九一九年一一月 上鳥居 維婁馬の幻夢界
◇
八景目――。
――くんくん。
蘇生したてで
彼は、直刀型の
今度は外吮山頂上中心に
――ぺろぺろ。
――ばくっ。
維婁馬の祖母である姶葉が、猶の実の妹である事。
姶葉と猶との娘が琳である事。
そして、維婁馬が猶の孫でもあり、同時に息子でもある事を。
――むしゃむしゃ。
人並外れた知能を有している維婁馬は、その事が何を意味するのか一瞬で悟った。
――もぐもぐ。
維婁馬が絶望に打ちひしがれているそばで猶が
――ごくごく。
直刀が
――
――
――
猶が祝詞を唱え終わると、
直刀を芯にして、直径一メートル程の円柱が形成される。
猶が円柱に手を伸ばし引き出したソレは、宮森にも見覚えのあるモノ。
――ごっくん。
ソレは維婁馬よりも若干低い背丈の……と云うよりも、全長と表現した方がしっくりくるだろう、
――げぷぅ。
化け物の姿を見たふたりの反応は違う。
「明日二郎。
やはり明日二郎だ……」
宮森は安堵し、
「この幻魔さえ現れなければ……」
澄は落胆する。
その幻魔……明日二郎は猶の手引きで維婁馬へと飛び乗り、彼の左耳から脳内部に侵入した。
維婁馬は白目を
「ああああぁぁあがががががぶっ……ぁあああががががっ……」
映像とは云え、息子が目の前で苦悶している。
助ける事も慰める事も叶わぬ澄は、口惜しさで胸も張り裂けんばかりだろう。
維婁馬の苦悶が収まると、彼の顔が怒りに歪んだ。
腹が立つ、気に障るなどと云う
そう、維婁馬は魔空界から召喚された邪霊に
映像中の維婁馬は宙に浮き、虹色の球体からなる円柱の中心……祭器を手に取る。
維婁馬が猶へ祭器を向けると、猶が着せられていた死に装束の裾から黒い
猶が股間を抑えて苦しみ出すと、死に装束の裾からは人糞と細切れになった肉片が飛び出す。
「こ⁈
こぼおおおおぉぉ!」
維婁馬が用いた
「自慢の玉と竿と糞を同時に詰め込まれた気分はどうだ?」
猶が何か喋っているようだが、モゴモゴとくぐもり語句は判然としない。
「お前がこれまで僕や母さんになした所業の数々、誠に度しがたい。
よって、死罪だ」
維婁馬の
「はあぅあぅがっ⁈
ああばゃあぁりゅぅぁぁぁぁぁぁがあぁぁ!」
猶が激痛に悶えると、死に装束の裾からは肉色の
手始めに太い綱。
後からは細い綱。
最後に袋。
大腸。
小腸。
胃。
猶の目前に
肝臓。
腎臓。
猶が
肺。
心臓。
臓器の殆どを体外に排出させられた猶は、自身頭上に頭部より少し大きい
辛うじて天を仰いだ猶の眼球は、何故か歓喜の光を
眼球。
脳。
眼球と脳を猶の体外に転移させた維婁馬は、地に落ちた脳を念入りに踏みにじる。
濁った眼球がプジュッ……と音を立てて潰れると、猶が頭上に展開していた
濁り切った眼球で猶が最期に何を見ていたのかは、遂ぞ判らず仕舞いだった――。
ここまでの惨劇で、宮森は納得している。
播衛門は病で亡くなったのではない。
維婁馬により、処刑されたのだ。
ここで、行方不明になった維婁馬を必死で探していた琳が外吮山頂上に到着する。
「坊や!
こんな所に居たのね。
良かった。
生きていて良かった……」
気持ちが落ち着くと、
そして、月明かりに照らされたモノを視て言葉を失った。
宙空に浮かぶ死に装束は
死に装束を地上に繋ぎとめるように垂れている肉の綱は凧糸の如し。
それらの下には、邪霊から滲み出る独特の悪臭に花を添える肉塊。
そして、息子の
琳は恐慌に陥り、思わず息子から飛び
息子の耳孔から這い出て来たモノを認識した途端に
その
目、鼻、口、耳などの
その代わりの
体表の前面には、
そこからは
詰まり、化け物は逆関節の後脚で直立している格好。
体表側面には、
体色は半透明の
そこに青紫色の輪紋が
宮森も良く知る、明日二郎の姿。
ソレは維婁馬の覚醒でもあり、猶が醸成した邪悪の継承でもあったのだ――。
◇
泡沫の記憶 その五 了
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