第二節 泡沫の記憶
泡沫の記憶 その一
一九一九年一一月
◇
意識を取り戻した宮森の目に飛び込んで来たのは、
彼が足元を見ると、そこには
それらの
いつの間にか、宮森の隣に澄が居た。
澄の着用している
澄が宮森に語り掛けた。
「宮森さん、ここが息子の精神世界になります。
いつ化け物が襲って来るか判りませんので、対処法を手早く教えます」
「お、お願いします……」
「宮森さんは魔術戦闘の経験がおありのようですので、直ぐに慣れるかと思います。
先ずは、意識を集中して武器を思い描いて下さい。
普段使い慣れた物で結構です……」
澄が手本を見せてくれるようだ。
澄が目を
短剣は一般にグラディウスと呼ばれる物で、円形の盾はバックラーだ。
今度は
「な、何と云うか、凄いですね……」
言葉を詰まらせた宮森だったが、取り
すると、宮森の手にコルトM1911が現れる。
「ほ、ホントに出た!
でも、撃てるのかな……」
宮森が試射に臨もうとすると澄が制する。
「その武器は出現させているだけでも霊力を消費しているのです。
霊力を温存する意味でも、発射は止めた方が良いでしょう
では、その銃を一旦消してみて下さい。
消えろ、と念じれば消える筈です」
「今度は消すんですね。
わ、解りました……」
宮森が念じると立ち所にコルトM1911が消え、それを見た澄が解説を続ける。
「この世界独自の法則をお教えしますので、良く聞いておいて下さい。
この世界に
それらに対し霊力で武器を生成して対抗する事が出来ますが、銃などの複雑な機構を持った武器は霊力消費が大きいと思われます。
宮森さん、刀や槍と云った武器の
「い、いえ……。
自分はやっとう(剣術)の方はからっきしでして、真剣を握った事も有りませんよ」
「解りました。
銃の方が慣れていらっしゃるようですので、そちらでお願いします。
なお、弾薬補給の必要はありませんが、弾薬生成にも霊力を消費します。
極力無駄弾を撃たないよう、お気を付け下さい。
それから、現実世界で使っていた魔術なども基本的には使えます。
他に質問がございましたら、目的地までの道行きがてらお答えしますので……」
澄が鈍色の土を踏みしめる中、どこか意を決した表情で語り掛ける宮森。
「澄さん。
自分たちの会話は、外の人にも聞こえるのでしょうか?
あ、魔術を使って読み取る事が出来るのか? と云う意味です」
「そうですね……。
通常の方法では出来ないと思って頂いて構いません。
わたし共の会話を聞きたければ、わたし共と同じように息子の精神に入らなければならないと思います。
もし侵入者がいた場合はわたしが判りますので、それほど心配なさらなくとも良いかと」
「例えば、外法衆正隊員並みの魔術師だったらどうでしょうか?」
「外部からの
例外としては、この精神の持ち主である息子です。
ここにいる限り、息子にはわたし共の会話が全て届きます」
「自分と息子さんである今日一郎 君は、実は以前から知り合っています……」
「
何でも、去年からの付き合いだとか」
「知っておられたのですか⁉
播衛門さんが話したとすると……
「その方の名前までは存じませんでした。
父は〈
その父が自我と記憶を取り戻したのも、その方の
比星 家の
「澄さんは双子を出産されたとの事ですが……」
「危ない!」
辺りの薄靄が急に晴れたかと思うと、澄は宮森をその場から突き飛ばした。
薄靄の
その何かは、澄の左手に出現した
宮森が飛来物を手に取り素早く検分する。
「槍だ……」
早速幻魔の攻撃に
宮森はコルトM1911を生成。
襲撃者を
その襲撃者は、爪先立ちで飛び跳ねるように移動する。
「〈
宮森が発砲して〈
「宮森さん、背中はわたしがお守りします!」
澄の心強い言葉の後、どこから湧いて出たのか十数体の〈
澄が前方に跳び出そうと構えた所で、彼女の服装が変化する。
白茶色の地味な紬は、
一体を
その身のこなしは、完全に〈
正確無比な射撃で確実に〈
小柄な女性とは思えぬ力強い
そのふたりの前に、十数体の〈
すると、息の根が止まった個体から
いつの間にか
「澄さんは、
「はい。
現実世界で虚弱な分、ここでは自由が
服の色も道具も自在ですしね」
現実世界では考えられないほど明るい笑顔を見せる澄に
宮森はコルトM1911を消し、澄と会話を続ける。
「これは、死んだのですか……」
「死んだ、というより、邪念が
「なるほど。
では澄さん、今日一郎 君の精神はいつもこんな風に〈
「大抵いますが、それでも二、三匹です。
ここまでの数は
この状態はまるで、三年前の……」
ふたりの会話を
◇
泡沫の記憶 その一 了
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