第六節 長慶子(ちょうげいし)
長慶子(ちょうげいし) その一
一九一九年八月 帝居地下 集中治療室
◇
外法衆による帝居襲撃から暫くの後、宮森は帝居地下の集中治療室で過ごしていた。
宮森の肉体は〈ミ゠ゴ〉と融合している為、経過観察が必要である。
日常生活に支障は無くなったが、外出は許可されないでいた。
取り寄せて貰った帝都劇場の冊子に目を通す宮森。
只、外吮山の戦闘で
ふじ との思い出の品と云う事もあり、心中は複雑なのだろう。
若干憂鬱な気分に片足を突っ込んでいた宮森に、この前ちゃっかり復活した明日二郎が茶々を入れる。
『何でえ、ふじ ちゃんの写真見てデレデレしやがってよ。
幾ら外出できないからって、お前さん気が緩み過ぎだぞ』
『仕方ない。
〈ミ゠ゴ〉と融合してしまって、今後何が起こるか解らないからな。
それに見た目だって……』
『オイ!
来たぞ……』
明日二郎の注意を受ける迄も無く、宮森は
瑠璃家宮が益男を伴い入室して来た。
最敬礼で出迎えた宮森の方から声を掛ける。
「殿下、すっかり元通りになられた御様子で何より。
また、殿下の方から御出で下さるとは恐悦至極に存じます」
「良い。
掛けてくれ」
最敬礼を解いた宮森が
腰を下ろした瑠璃家宮が問う。
「宮森、加減はどうだ?」
「日常生活に支障はありません。
殿下こそ、もう宜しいのですか?」
「多野 教授の御蔭で余の方は大事ない。
ふむ、手足は動かせるようだな。
身体に痛みは有るか?」
「いえ、常時痛覚遮断を行なっておりますので特には。
武藤医師によると、骨質を再生している為との事です。
御心配には及びません」
瑠璃家宮は朗らかに笑い続ける。
「となると、問題は見た目だな。
両手は手袋で、頭部は覆面で隠す事になるだろう。
只、今の季節に厚着をすれば目立つ。
帝居地下以外に外出許可を出せるのはもう少し先になる、我慢してくれ」
「殿下の御役に立てないばかりか
「そう自身を責めるでない。
其方が余を救ってくれた事は紛れもない事実。
命の恩人だ。
その功を加味し、其方を幹部に迎えたいと思っている」
〈ミ゠ゴ〉の柔組織に覆われた顔を、驚愕の表情に歪めさせた宮森。
「この
自分の他にも有能な会員の方は山程おられる筈、その方達を差し置いて……」
「宮森、これは決定事項だ。
よもや断るまいな?」
「し、しかしこの私に幹部の重責が果たせますかどうか……」
「構わん。
仕事は
で、もうじき
その際の儀式と並行して、其方の幹部昇格儀式も行ないたい。
日時は追って知らせる故、連絡を待て」
席を立ち退室する瑠璃家宮を、再び最敬礼で見送る宮森。
脳中では早速明日二郎が騒ぎ始める。
『やったじゃねーかミヤモリ!
幹部だぞ幹部。
これで組織の中枢に食い込めたぜ。
後でオニイチャンにも知らせてやんねーと♪』
◇
一九一九年八月 帝居地下 神殿区画
◇
七夕祭当日、宮森は会場となる神殿内の大
いつもの背広姿ではなく、頭部から足元までもスッポリと覆う
本来は
会場には瑠璃家宮 派の歴々が
彼ら上級会員達は
儀式の進行役と思われる職員が会員達に起立を促すと、女官に身体を支えられた綾と瑠璃家宮が登場した。
最敬礼で向かえられた瑠璃家宮 達が専用の
進行役が
朱色の
藍色の斎服は
そして、灰色の斎服は比星 家。
今回の儀式を取り仕切る宮司、今日一郎である。
管方達は高舞台奥の楽屋へ向かい、
尾倉郷 家は、観覧席正面から見て楽屋奥左側の
横笛には、
高曽我 家は、楽屋奥右側の
蓮田 家は、楽屋奥中央の
韮楠 家は、楽屋外左右に設置してある
楽屋
そして今日一郎 向かいの
宮司である今日一郎の合図で演奏が始まると、例の如く会員達が吐袋に
そして、宮森が高舞台へと足を踏み入れた。
宮森の登場で曲調が妖変すると、宮司が不浄の言葉を放出して行く――。
――
――
――
時間と空間を統べる邪神の
球体は宮森の周囲を取り囲み、柱状に集合する。
邪念が流れ込むに連れ、虹色の球体群の輝きが増した。
開くのは、異界への
曲調が怪変すると、次元の底から
虹色の球体群が精を吐き出す――。
宮森から虹色の球体群が離れ消滅した。
観覧席の方を向き
宮森は跪いたまま瑠璃家宮の手を取り、その手に口付けをした。
瑠璃家宮の眼が親愛の気を帯び両人が眼を据えた所で、曲が終了する。
宮森への、邪霊定着の儀式が終了した――。
◇
長慶子(ちょうげいし) その一 了
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