第一節 玉藻の憂鬱
玉藻の憂鬱 その一
一九一九年 七月
◇
背丈は日本人女性平均ながら、大きく張り出した
キュッと引き締まった細腰は、多くの者が称賛を送るだろう。
彼女こそが外法衆正隊員のひとり、
⦅もう
そろそろ連絡が来ても良い筈じゃが……⦆
気を揉んでいる玉藻の許へ、複雑な
「玉藻 様、
私はこれから
では、交信を御渡しします」
外法衆本部は、内部情報の
しかし、正隊員には独断で外部と通信する権限が与えられていた。
準隊員が退室し、保留してあった媼との通信を繋ぐ玉藻。
『
媼よ、なんぞ有ったのかえ?』
玉藻の脳裏に老齢の女声が届く。
『玉藻さんかい。
あたしゃいま外吮山を降りたとこだよ。
良く聴いとくれ。
あたしじゃ治せないから、
ああ、
隊長の天芭
そこで
『まさか、隊長達が負けたのではあるまいな?』
『いや、隊長達は勝ったよ。
戦利品も受け取った。
でもねぇ、天芭 隊長は重症、武悪さんは……』
『……死んだのじゃな。
先程連絡係が武悪の研究所に向かったのもその
『うぅ……武悪しんじゃったぷ~ん。
玉藻なんとかしてくれぷ~ん!』
この『ぷ~んぷ~ん』
武悪とは仲が良かったらしく、涙声になっていた。
『嘯吹さん、あんた邪魔だよ。
思念が乱れるから泣くのは後にしな。
それに帰り道で襲われたらどうすんだい。
いま全開で戦闘できるのはあんたしかいないんだよ!
玉藻さんからも言っとくれ』
『嘯吹、今は抑えよ。
天芭 隊長と戦利品を無事持ち帰る事が肝要じゃ。
で、肝心の瑠璃家宮 一派はどうなったのかえ?』
『あたしが外吮山の頂上に行った時にゃ、
瑠璃家宮も完全に石化してたよ。
前に天芭 隊長を治療繭送りにした
ここで、石化した瑠璃家宮の姿形が玉藻へと伝わる。
右半身から
『……武悪が死ぬわけじゃ。
で、瑠璃家宮 一派は誰ぞ迎えに来ておったのかえ?』
『あたしが見る限りではいなかったけど、山を下りる途中で術式反応が有ったよ。
あれは十中八九転移術さ。
〈白髪の
『うむ。
瑠璃家宮 一派は
帝居周辺へは、【
その三人に
瑠璃家宮の命も長くはないぞえ』
媼から危惧の念が漏れた。
瑠璃家宮 一派の動向ではなく、帝居へと派遣された正隊員達の事を気に掛けている。
『あの子達、上手くお使い出来るかねえ。
張り切ってやり過ぎるんじゃないかい?
あたしゃ心配だよ……』
『確かに気狐と橋姫はアレじゃが……。
蝉丸が付いておる、そう不安がる事もなかろう。
若手にも平等に
で、
『そうそう。
翁さんは一足先に武悪さんの研究所へ向かったよ。
何でも、色々とやりたい事があるとか。
比星 播衛門からお土産をたくさん貰ったからね。
武悪さんが死んだってのに、これ以上ない程ウキウキしてたよ。
後、武悪さんの遺体と諸々のお土産は研究所の方に運ぶってさ。
指揮も玉藻さんの方で
丸投げだねこりゃ』
『全く、面倒事ばかり押し付けよる……』
目頭に指を添えて
◆
玉藻の憂鬱 その一 了
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