9  盃





「ペリ様、先日はありがとうございました。」


人の良さそうな笑みを浮かべた男が

ペリに宝玉で出来た盃を差し出した。


彼は商人だった。

ある日その商人がペリの家の扉を開けた。


どうして彼に扉が開かれたのかペリにも分からなかった。

なぜなら彼は見た目と違ってその望みは邪悪だったからだ。


人を陥れるための罠。


それをペリは彼に与えたのだ。

自分でもどうしてか分からない。

そして彼は再び訪れて礼と言って、

派手な宝石の付いた盃を持って来たのだ。


「またよろしくお願いしますね。」


商人は顔に笑みを張り付けたまま帰って行った。


あの男にまた扉は開かれるのだろうか。


そう思うと少しばかり心が重くなり、

ペリは二度と見たくないと感じた。


だが禁じられた麻薬の様に、

あのまじないを作り上げた時の快楽は

今までに感じた事は無かった。


そしてこの盃。


自分が毎日使う陶器とは違う美しく派手な盃は、

彼には極めて美しいものに見えた。

半透明の宝玉は蝋燭に照らされて輝いている。


彼はお茶を淹れると盃にそれを注いだ。


一瞬宝玉はゆらめいて輝いた。


だが、熱いお茶の温度に耐えられなかったのか、

盃は音を立てて二つに割れた。


テーブルの上にお茶がこぼれて床にも伝って落ちた


彼はしばらくそれを見ていたが、

割れた盃を掴み壁に叩きつけた。


盃は床でただの土くれとなった。


偽物の宝玉だったのだ。


こんなものを礼として持って来た男は、

またお願いしますと言っていた。


彼は含み笑いをする。

そしてそれは徐々に大きな笑い声になった。

恥知らずにも程があると。


そしてそんなものに呪を与えた自分は一体なんなのか。


彼は疑問を持つ。


だがそれもほんの一瞬だ。

彼は考えるのが面倒になっていたのだ。


ただ彼は笑った。

そしてどうして笑っていたのかも忘れた。







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