4  小男




時にはペリも驚く事がある。


真夜中、突然扉が開いたと思ったらすぐに閉じた。

蝋燭の光がさっと消えて彼は一瞬身構えた。


窓には色街の明かりが見える。

ペリは口元で素早くまじないを唱え蝋燭の明かりをつけた。

その途端、


「さすがは旦那。」


きんとした声が聞こえた。


「……誰ですか。」


すると扉の近くの暗がりから人が出て来た。


「ほう。」


それは確かに人の形をしていた。

だが背丈は赤ん坊ほど、子供より小さな男だった。


「旦那、占ってくだせえよ」


男は情けない声で言った。


「私は占い師じゃない。

だが、占って欲しいなら占ってやろう。」

「さすが旦那だ。」


小男は手を叩く。


「早速だが、わっちは死ぬかね。」


ペリは目を細めた。


「そうだね、死ぬな、もうすぐだな。」


小男はがっかりした顔になり肩を落とした。


「やっぱりなあ、そんな気がしたんだ。」

「どうしたの。」


ペリは彼と目線を合わそうと床に座った。


「旦那のせいだよ、旦那があれに何かしたんだろ?

納屋の麦にだ。」


ペリは思い出す。


鼠が出たのだ。

小麦を喰い散らかしていた。

だから納屋と小麦に鼠避けの呪をかけたのだ。


ペリはくすくすと笑いだす。


「笑い事じゃねぇです、旦那。だからわっちは死ぬんだろ?」

「そうだね、普通のネズミはあの納屋にも入れないし、

入れても小麦は食べられない。

だから君は普通のネズミじゃないね。」


ペリはじっと男を見る。

小男は落ち着きなく目を動かした。


「ねえ、旦那、呪を解いて下さいよ、

お願いだよう。」


ペリの目から感情が消える。


「もう間に合わないよ。」


すると突然小男は痙攣をするように

体をぴんと伸ばしてばたりと倒れた。


魂が抜けるように痙攣は足先から緩み、

最後に頭ががくりと崩れた。


そして残ったのは大きな鼠だった。

口から泡を吹いている。


「すまないね。」


ペリは言うと鼠の上で呪を唱えた。

すると小さな死体は静かに消えた。


「君を寄越した術師の枝はまだついているから送り返したよ。

もし君が丁寧に葬られたら良いけど、

そうでなければ君の体に入った私の呪が現れるからね。」


多分ペリのこの店に気が付いたどこかの術師が、

鼠を使って探らせたのだろう。

だが腹の減ったネズミを使ったのは失敗だったなと彼は思った。


「君の仇は取ってあげる。」


二ヶ月程経った頃か。

王宮付きの術師の一人が病死した。


王宮では術士間での権力争いが激化していた。

権力を得るためにより強大な力を欲するものがいたのだろう。


欲にかられた術師が一人死んだ。


だがペリにはそんな事は関係なかった。

術師の死も彼にとってはどうでもよい事だ。







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