ロング・ロング・ミッドナイト
気配を感じて目を覚ました。毛布からはみ出した足が冷えていて、冬が近づいてきていることを感じた。夢から覚めるのは惜しいが、暖かさに心残りを感じながら起き上がる。そろそろ支度をしないと間に合わないかもしれない。今日は大事なお客様が来る日だ。
誰もいない長い長い廊下を裸足で歩く。私が今汚れた制服でいるということはきっと疲れてそのまま寝てしまったのだろう。朝食のまえにシャワーと着替えを済ませた方がいいかもしれない。時計の針は12時を指しているから、朝食とは言えないけれど。シャワーを浴びて、服を着替える。いつも同じ服だけを着ていて、友人にからかわれたのを思い出した。今だにそれしか持っていないなんてバレたらまた何か言われそうだ。
軽い食事を済ませたら準備を始める。これからお客様が来るから、精一杯のもてなしをしなければ。準備をしている時間はいつだって楽しい。どんな驚いた顔を見せてくれるかを考えながら、広い家を歩き回る。こんなサプライズやプレゼントはどうだろうか。ああ、お客様の到着が楽しみでたまらない。
全ての準備を終えたら、最後に玄関で身だしなみを確認する。汚れひとつない綺麗な制服に、まとめられた長い髪。姿は完璧。もてなしの準備もばっちりだ。
息を吸い込んで、背筋を伸ばす。
そして、扉が開いた。
「は……?」
さぁ、お客様である勇者御一行様の到着だ。
「どういうことだ……?その服は……」
「あの服は何百年も前のうちの伝説の部隊の制服だろう!?なぜお前などが着ている!?」
「というかどういうことだ……?なぜここに人がいる……?」
小隊ぐらいの人数に動揺が広がる。
私は一呼吸おいて、口を開いた。
「僭越ながら自己紹介を」
「貴殿方の目的地は間違ってなどおりません。ここは紛れもなく勇者が目指す地、魔王の棲む城でございます」
「そして私が元勇者、魔王でございます」
「ようこそ勇者御一行様。私の最高のおもてなしを受けて、死んでくださいませ」
再び静かになった屋敷の中で1人、静かになった客人たちを見つめる。
今回はいつもより人数が多かったから楽しめるかと期待していたが、あまり手応えはなかった。きっと勝手にそのうち風化して、次に見るころには跡形もなくなっているのだろう。
「次にお客様が来るのは何年後かなぁ」
前に来たのは50年前、その前は確か80年前。それより前は覚えていない。それでも、いつか、次のお客様が必ずやってくる。私がここにいる限り。
次のお客様は楽しませてくれるだろうか。いつか、終わらせてくれる人は現れるのだろうか。そんなことを考えながら、汚れたままの服でベッドに潜る。
嫌なことを考えるのはやめにして、さぁ、夢の続きを見よう。僕が不死に成る前の、勇者だった頃の夢を。冬の訪れから目を背けるように、暖かな夢の中へと意識を向けた。薄っぺらい毛布のなかで、忘れてしまった友人の声で小言を言われた気がした。
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