第二章 二度目の品が届きました!?

第10話 再びチャイムは鳴る


 休日である土曜日。俺は自宅のリビングで通帳を睨み付けている。


「……謎だ……」

「ふみゅう?」


 部屋の中を跳ねていた毛玉が、ソファーテーブルの上に乗った。そして俺が持っている通帳を覗き込んだ。

 毛玉が我が家に来てから、一週間ほど経過したが相変わらず毛玉は毛玉である。俺の外出時は必ずついてくるようになった。自由に歩かせるのは心配だが、ペットのようにリードを付けるわけにもいかない。周囲の人間からは毛玉の存在を認識出来ないからだ。俺が不審者扱いされてしまう。

 だから、出かける時はショルダーバッグに入れている。初めは嫌がるかと思ったが、本人は乗り気だ。最近では、前日からショルダーバッグの中で待機しているほどである。如何やら外に出られるのが楽しいようだ。相変わらず謎な毛玉だが、触り心地は良い。


 さて、話しは戻るが目下の問題はこの通帳にある。俺は一人暮らしの大学生だ。実家からの仕送りで日々を過ごしている。つまり、仕送り額は大学生活を謳歌出来るかを決定するのだ。


「……なんか、桁数一個多くない?」

「きゅう?」


 そうなのだ。仕送りの額が普段よりも多いのだ。こんなことは今まで一度もなかった。何故、急に仕送り額が増えるのだ?しかも数字が上がるのではなく、一桁追加というところに不信感を抱く。

 一つ考えられるのは、毛玉の存在である。毛玉が来てから仕送り額が増えた。つまり、実家は俺が毛玉と共に暮らしていることを把握していることになる。毛玉と一緒に暮らしていることを知られるのは、特に問題はない。だが、その状況を知りつつ一報も連絡が無いのは如何なものかと思う。

 確かに実家は田舎の中の田舎であり、キングオブ田舎だろう。普通なら電話やメールで連絡を取り合うのだろう。だが、実家には電化製品破壊マンが居る。それは理解している。しかし、郵便は届くのだ。連絡手段はある。それに伝書鳩を飛ばしてもいいじゃないか、連絡をくれ。何の連絡もなく毛玉を送り、仕送り額を増やしたからと言って俺が納得するとでも思っているのだろうか。俺はそんな簡単な男では……。


「……あ、ミロ論丸のグッズが出るのか……」


 不意にスマホの通達が表示された。確認をすると俺の好きなアニメキャラクターのグッズ化を知らせるメッセージであった。素早く頭の中で、今月分の生活費を差し引いた残りの額を導き出した。仕送り額が増額されている分、余裕でグッズを購入することが出来そうである。そのことに頬が緩んだ。


「ふぁみゅ!」

「分かっているって、無駄遣いしないさ」


 俺の表示を見ると、毛玉がスマホの前に立ち画面を塞いだ。言葉を話せずとも、仕草と鳴き声でなんとなく言いたいことが出来るようになって来た。しかし毛玉の意思を理解出来るようになることは、果たして進化と言えるのだろうか。寧ろ退化しているのではないだろうか。そんなことを思いながら、毛玉を宥めるために撫でた。


 ピーンポーン!


 不意にチャイムが鳴った。


「きゅう?」

「……なんか届く予定あったか?」


 毛玉を撫でている手を止めると、立ち上がる。俺は何も通販は頼んでいない。届く予定があるとすれば……。


「……え? まさかな……。毛玉が届いたからって、考え過ぎだよな……」


 嫌な予感がした。まさか実家から再び、何かを送られて来たのではないかという考えが過ったのだ。いや、毛玉を送り込んで一週間しか経過していない。新たに送り込むとしても、もう少し期間を設けるだろう。別に俺は怪人と戦う正義の味方ではない。アニメの主人公のように毎週、送られてくる謎な物体と悪戦苦闘を繰り広げられる必要はないのだ。


 考え過ぎだと自分に言い聞かせると、玄関ドアを開けた。


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