第34話 ハッピーエンド


 そうして暗転が開けた時には、その視界は一変していた。

 場所こそ先ほどと変わらない城の礼拝堂で、立っている位置も特に変わりはない。ただ多少時間の経過はあったらしく、礼拝堂は綺麗に補修されており、いつの間にかそこにはたくさんの参列者が座っていた。

 当然俺は、目を白黒させながら時乃に説明を求めるべく、横を向く。

 ……すると。

 

「あー! あーあーあーあー! バカバカバカバカ‼‼ こうなるって分かってたのに! 分かってたのに、どうしてわたしは違うルートにしなかったのーー‼‼」


 ――これでもかとめかし込み、純白のウェディングドレスに身を包んだ時乃が……何故か頭を抱え、そこに立っていた。

 その異次元の美しさ、そして可愛さに、俺は思わず息を呑むが、時乃はお構いなく一人悶え続ける。

 

「こんなに恥ずかしい思いをするなら、変な意地張らずに、姫ルートにしておくんだったあぁぁ……‼‼」


 ベールごとぐしゃりと頭を握りつぶしながら、宙に向かって叫び続けるその様は、端から見ればかなり滑稽ではあった。

 ただ俺からして見れば、その反応は少し不満ではある。


「な……なんだよ、時乃はそんなに俺が不満か?」

 

 なので無意識にそうこぼすと、時乃は途端に首を振りながらそれを否定してくる。

 

「ち、違っ……そういうんじゃなくて……‼」 


 

 《ではお二方。――誓いのキスを》


 

 と、そうこうしている間に、神父の姿となった宰相がそんな事を高らかに宣言してしまう。時乃はその声に完全に固まってしまった。

 

「…………っっ‼‼」

 

 そして俺もまた、戸惑いの声を上げざるを得なかった。

 

「……あ、あれ? ちょ、俺の意思に反して体が動いていくんだが……⁉」 

 

 そう、別にそんなことをしようとはしていないのに、俺は時乃の顔にかかるベールをゆっくりと上へめくり上げていた。そうして顔をあらわにされた時乃は、口をあわあわと溶かしながら俺を見つめる。

 そして俺は意思に反して、その潤んだ唇に向け、徐々に顔を近づけ――

 

「……あ、あ、あ、……ひゃああぁぁあぁああ‼‼‼」


 そうして、時乃の変な悲鳴が上がり、吐息が唇に触れるかといったところで……。突如すうっと、視界が暗転してしまったのだった――



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