10 我ら七人

 彼女は美しい。

 そして献身的だ。

 私がこの奇妙な共同生活に加わって、どれほどの時が経っただろうか。

 彼女は常に美しく官能的だ。

 私は彼女に剣を捧ぐ騎士の一人であり、彼女の甘い口づけを受ける愛人の一人だ。

 我らをとらえて離さぬ宿命の女。

 彼女の赤い唇、白い肌、細い指からは逃れられない。あの黒く豊かな髪が我らをこの地に縛り付ける。


 彼女の美しさは母親譲りであったという。

 美というものは衰えいくものだ。

 彼女の母は衰えいく自身の美しさと、増していく娘の美しさが交差したとき、娘を殺すことにしたという。

 彼女の母には神秘的な力があった。

 母はその力をもって娘を葬ろうとした。

 それに抗ったのが我々七人の騎士だ。

 戦いの中、戦いのあと、騎士たちは少しずつ変わりいく。

 だが、我々は常に七人で彼女のそばに付き従い、ついには勝利したそうだ。

 「あれも私と同類さ。おまえらもわかっているだろうに」

 我らが宿命の女の母は最期にこういったという。しかし、違う。彼女は我らの前では常に美しくずっと我らを虜にしつづけた。そう、彼女の美しさはいつまでも変わらず、我らはいつまでも彼女の虜だ。

 

 私は新人の勧誘に来ている。

 最初は見向きもされなかった。

 それでも、私は根気強く語りかけた。

 ようやくこちらを見てもらう。

 疑念と恐怖を抱いていることは瞳でわかった。

 私は何度も何度も説く。

 根気強く、粘り強く、こちらに来るように、七名の騎士の一員になるように。

 常に彼に寄り添い、彼の耳元で、彼の肩の後ろから、熱心に彼女の素晴らしさをささやき続けた。

 ようやく彼がうなずいてくれた。


 騎士になるためには試練が必要だ。

 熱に浮かされた目をした彼をビルの屋上へと誘う。

 「さぁ、騎士になれ」

 私の言葉に彼は無言で走り出した。

 

 彼は騎士になった。

 やっとかわりを見つけられた。 

 後は任せた。

 目を閉じる。私は消えていく。


 ◆◆◆


 「あの人、元気だったのにね。変な声が聞こえると言い出したかと思ったらね……」

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