06 星は今宵も美しく
俺たちは永劫回帰の中で踊り続けることしかできない。
◆◆◆
午前三時、俺は妻と車を走らせている。
この道は面白みがないのか、走り屋が近寄らない。
心霊スポットもないので心霊スポットマニアや動画配信者もこない。
だから、人を殺して埋めるには最高だ。
助手席には妻、トランクには老夫婦、四人で深夜のドライブを楽しんでいる。
ひとけのない場所で車を停める。
トランクルームをあけて縛り付けた老夫婦を森の中に運ぶ。
俺たちは若く、金が必要だった。
そこに都合よく年老いて使い道もない金を溜め込んでいる老夫婦がいた。
「どうしてこんなことをするのだ。金が必要ならばいくらでも融通してあげたのに」
老夫婦の夫が呻くように言う。
「それじゃ足りないからよ。あたしたちにはもっとお金が必要なの」
妻が俺のかわりに答えてくれる。
ああ、そうだ。すべてが欲しいのだ。お前らの口中に光る金歯まですべて必要だ。
俺たちは若い。お前らは年老いていてもうすぐ死ぬ。三途の川の渡し賃の他に何が必要なのだ。
スコップを取り出す。
老夫婦はすごい目つきで俺たちをにらみつける。
「報いを受けさせてやるわ」
俺はかまわずスコップを振り下ろした。
新月の夜、星は美しく輝いている。
◆◆◆
若い頃は色々と悪さもしたものだ。
墓まで持っていかねばならない話もある。
しかし、それなりに私たちも成長した。
幸運にも得ることができた金を元手に商売をはじめ、妻と二人で少しずつ、これを育てていった。
子どもに恵まれなかった私たちには店が子どものようなものであった。
妻とともに慈しみ、大きくしていった。
自分で言うのもなんだが、私たちは誠実で勤勉であった。人が羨むような生活になってもおごらず、周囲の人々に様々なものを分け与えていったつもりだ。
そろそろ引退して、悠々自適の生活をしても良い頃合いかもしれない。
豪華クルーズ船で世界一周、昔から妻と冗談を言い合っていた。
それを実現しても困らないくらいの蓄えもできた。
その前に妻に指輪を贈るのも良いかもしれない。
大きな石の付いた指輪、若い頃にはあげられなかったプレゼント。
宝飾店に行った帰り道、私たちは気を失った。
がたがたと揺れる暗闇の中、妻と私は運ばれていく。
猿ぐつわのせいで会話もできない。息も苦しい。
どこかで見たような森と夜空、転がされた私たちを見つめるのは若い男女。
「ちょうどこんな晩だったよな」
若い男がスコップを片手に笑う。はるか昔に見た顔、以前は皺が刻まれていた顔がみずみずしい肌を取り戻して眼の前にある。
「あんたたちがあたしたちを殺した晩、あたしたちを埋めた晩。あの日も星だけがとても美しく輝いていたわ」
猿ぐつわを外された私たちは命乞いをする。
もちろん、それには何の効果もないことぐらいわかっていた。それでも命乞いをせずにはいられなかった。
スコップが光った。
◆◆◆
若い俺たちには金が必要で、年老いたあいつらには必要ない。
それは俺たちの中では未来永劫変わることのない真理だ。
「そう、こんな晩だったよな」
星は今宵も美しく輝いている。
俺はスコップを振り下ろし続け、スコップを振り下ろされ続ける。
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