第44話 すぐ戻ってくるよ。でも、今は……日本に帰らなきゃいけない
翌朝、珍しく僕の方が早く目が覚めた。
リュックに数日分の着替えを入れる。ずっと部屋干しだから、服にも生乾きの臭いが残っていた。荷づくりしたところで、ソファーにもたれて深呼吸した。すると奥の部屋のドアが開く。
「晴人。もう起きてんのか」
陽が起きて来た。目元が浮腫んでいる。
昨日の一件から、僕と陽は顔を合わせていなかった。昨夜はあの後も泣いたし、やけ酒も飲んだのだろう。
「ん。どっか出掛けるべか?」
「うん。ちょっと遠出してくる」
僕がパスポートをリュックに入れるのを見て、陽は息を飲んだ。
「お、おい。待てよ。日本に帰るべか!」
陽はボサボサの髪のまま僕に掴み掛ってきた。怯えたように震える瞳。また涙が溢れそうだ。陽は僕の肩を揺さぶる。
「落ち着けって。とりあえず二、三日だけだから。用が済んだら、また戻るから」
ホントかよぅ……、と噛み殺したような声で聞き返す陽。
考える時間が欲しい。十日ほどの生活だったけれど、この国に思い出を作りすぎた。
「すぐ戻ってくるよ。でも、今は……日本に戻らなきゃいけない」
「今さら東京なんか帰って、どうするつもりだべか」
「いいや、東京には帰らない」
もちろん故郷の札幌にも帰らない。僕はリュックを肩に掛け、ゆっくりと立ち上がった。
「……沖縄だよ」
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