奇妙なアルバイト(その8)

「東條くん、何か百合子が怪しいみたいないい方ね。でも119番通報したのは百合子よ。怪しかったら一目散に逃げるじゃない」

「そうだね。殺す動機もないしね」

「東條くん、止めて!」

玲子が睨みつけた。

「では、犯人はどうやって侵入したのです。門も玄関扉も施錠してあったのでしょう。菱田くんが、門の前で消防車が来るのを待っていたので、犯人はそこから逃げられない。10分後だかに消防車が、続けて警察もやって来たし・・・」

ひとりごとのように呟くと、みんな黙り込んでしまった。

犯人は、煙のように侵入し、老人とその義理の娘をゴルフクラブで殺傷し、煙のように消えた。

・・・これって、ある種の密室殺人?


「それに、百合子をプラットフォームから突き落とそうしたり、剃刀を送り付けたり、アパートの前のゴミの集積所に放火したりしたのも、寺崎の仕業のようね」

玲子が言った。

「警察にそんなことが起こったと言ったら、あちこちの防犯カメラを調べて、封筒の指紋を取ったりして・・・」

「やるわね」

百合子が警察の仕事ぶりを褒めた。

「寺崎が嫌がらせをして、結婚させまいとしたということか」

「これで、犯人が寺崎ということで間違いないわね」

玲子がきっぱりと言った。


「百合子がわざわざ会いに来た理由が分からない」

家にもどってそんな疑問を口にすると、

「じぶんは警察に疑われていないと言いに来たのでしょう」

可不可が答えた。

「とすれば、どこかやましいとことがあって、そこに破綻がないかを確かめに来たような気がする」

確かに、百合子はそわそわして落ち着かなかった。

すでに寺崎が重要参考人として取り調べられているのに?

「寺崎はどうやってお屋敷に入り込んだのだろう。徳三の次女の奥さんが合鍵を持っていて、その鍵で玄関から入ったか?」

「可能性はあります」

「可能性ねえ。ここで話すのは可能性がある」

いろいろな推理というか、すべての可能性をぶちまけるようにして話し合った。


「・・・脚立を車に積んでやって来て、塀を乗り越えた。これも可能性はあるよね」

「あります。でも、いちばん可能性が高いのは、百合子さんが手引きをしたということです。内部から手引きするのがいちばん簡単ですから」

「えっ、ちょっと待ってくれ。菱田くんが寺崎を?」

「寺崎とは言ってません」

「じゃあ、誰を?」

「それは分かりません。ただ可能性だけの話をしています」

これには頭を抱えてしまった。

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