奇妙なアルバイト(その7)

徳三の次女の連れ合いの寺崎浩司が、警察に重要参考人として呼ばれた。

長女、長男、次女、次男の4人の子供と、それぞれの連れ合いと孫3人の11人が徳三の係累だった。

麻布に住む次女夫婦以外は都内には住んでいなかった。

近くに住んでいるのに、次女夫婦は広尾の徳三の屋敷には近寄らなかった。

夫婦で金の無心ばかりするので、徳三に嫌われていたし、その意を汲んだ美知子が、嫌がらせをして近づけようとしなかったからだ。

寺崎は、その日曜は友人とゴルフに出かけると言って朝から車で出かけたが、午後からのアリバイがあいまいだった。

何より、徳三と美知子を殴ったゴルフクラブと台所に投げ込まれた発煙筒に寺崎の指紋が残っていた。

盗まれた物はないので強盗の線はなく、明らかに徳三と美知子殺害が目的と思われた。

寺崎は手がけた事業がすべて失敗し、美容院を経営する次女のヒモになっていた。

ただし、遊ぶことは人並み以上に遊ぶので、いつも金に困っていた。

誕生パーティーで公開プロポーズした徳三が菱田百合子と結婚すると、妻の次女の遺産の分け前が減るので、寺崎が結婚前に義父を殺そうとしたというのが警察の見立てだった。

もっとも、これは下世話な週刊誌のネタを集めた犯罪裏チャンネルの怪しい情報だったが・・・。


百合子が会いたいというので、玲子と3人でいつもの駅前のカフェで会うことにした。

話を聞かせたかったので、オンボロ車に可不可を乗せて向かった。

カフェは特にペット禁止ではなかったようだが、いちおう店主の目が届かないコーナーのテーブルの下に可不可を隠した。

百合子は憔悴しきっていたが、退院間近の入院患者のように目だけがギラギラと輝いていた。

「警察でけっこう調べられたんですって」

玲子は、電話で先に話を聞いていたようだ。

「犯人と思われたのですか?」

「まさか」

百合子は首を振った。

「犯人に見なかったか、と何度も何度も・・・」

「で、見なかった?」

「ええ」

「ふつう煙が向かって来る方向へは行かないですよね」

「きついいい方ね」

玲子がたしなめた。

「いいんです。・・・台所の先が玄関と分かっていたので、まだ煙だけなので突っ走れば外に出られるととっさに思ったのです」

百合子の目の光が、少しだけ陰った。

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