奇妙なアルバイト(その6)

しばらくすると、百合子から連絡があった。

殺人のあった日、美知子に呼び出された百合子は屋敷に行って徳三に会った。

徳三は、豪華なケースに収められたダイヤモンドの指輪を不自由な手を伸ばしてガラスのテーブルに置いた。

テーブルの上には署名捺印された結婚届がさりげなく置いてあった。

徳三が口をもぐもぐさせて、

「結婚指輪は・・・」

とか言った。

よく聞き取れなかったが、

「これは婚約指輪で、・・・結婚すれば、もっと高価な指輪でもネックレスでも何でも買ってやると父は言っています」

傍らの美知子が、通訳するように、徳三に代って言った。

百合子は目の前のダイヤモンドの指輪に魅入られたが、手にしようとはしなかった。

手にすれば結婚を承諾したことになる、かといって突っ返して席を立つこともできなかった。


ただもじもじしていると、美知子がどんどん話を進めようとする。

その時、火の手が上がった。

火元は台所のようで、きな臭い匂いと煙が廊下を伝って応接間に入り込んで来た。

あわてた美知子が、廊下へ出て火元を確認すると、車椅子ごと徳三を抱きかかえて転ぶようにして庭に降りた。

一方の百合子は、もくもくと足元から湧いてくる煙をかいくぐるようにして、口をハンカチで押さえて門の外へ逃れた。

消防が駆けつけ、火事ではなく発煙筒が2本も台所で発火しただけと分かったが、庭先で倒れた美知子と車椅子ごとひっくり返っている徳三を見つけ、やがて警察もやって来た。

警察に事情を聞かれた百合子は、ありのままを供述した。

百合子は、徳三と美知子が襲われるシーンは見ていなかったし、犯人も目撃してはいなかった。

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