奇妙なアルバイト(その5)

家に帰って、菱田百合子の相談事を可不可に話した。

「相談する相手をまちがえています」

可不可のひとを小馬鹿にしたような返事に、少しむかついた。

「百合子さんとやらが、そのお金持ちの老人のプロポーズを辞退すれば、そんな物騒なことにはならないです。よって、ボディーガードは必要ありません」

「ということは、百合子さんは、その吉岡とかいう老人と結婚する気があるということか?」

「ピンポーン」

「やれやれ、確率は?」

「50対50」


「ボディーガードを引き受けるんですか?」

「うーん、後輩の女の子が困っている訳だからね」

「ギャラを来年就職してから分割で払う、というのはありえません」

「困っているのを黙って見逃すのかい」

「情緒的になり過ぎてやしませんか?探偵事務所をビジネスではじめたのでしょう」

「ああ、この場合個人的ボランティアとして・・・」

「甘すぎます」

可不可はぴしゃりと撥ねつけた。



「老人と結婚して6ヶ月だけがまんすれば、巨万の富が手に入り一生安泰の人生が待っている」

「ではどうして迷うのです。たしかに、6ヶ月だけのがまんではありませんか」

「なかなか、そうも割り切れたものでもないよ」

「では、百合子さんにはどんな返事をされたのです?」

「いや、何も。しばらく考えさせてくれと」

・・・しかし、2週間もぐだぐだ考えている間に事件は起こった。


ある5月の日曜日の昼下がり、放火殺人事件があった。

場所は、広尾の有栖川宮記念公園近くの吉岡徳三の屋敷。

当主の吉岡徳三が殴打されて瀕死の重症、義理の娘の柳原美知子が撲殺された。

犯人は不明。

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