奇妙なアルバイト(その3)
すると、あちこちから、
「そういえば、亡くなった後妻の裕美子さんと瓜二つね」
「そもそも裕美子さんは、父の好みの真理まりえに似せて整形したという噂は本当かしら」」
「それで、真理まりえに祟られて死んだのよ」
「ああ、だから娘は不細工なのね。それこそ整形すればいいのに」
とひそひそと聞こえよがしに囁く声がしました。
「お父さん、この若い女のひとを紹介してよ。お名前は?」
菫色の華やかなパーティードレスを着た中年女が近づいて、顎についた贅肉を揺すりながらたずねると、
「そうよ。そうよ。紹介してよ」
大人だけでも8人ぐらいの集まりのうち、半数ほどの中年女性が囃すように言って老人を取り囲んだ。
老人が口をもごもごさせていると、
「あら、お父さん、花嫁さんの名前も知らないの」
と嘲笑う声が沸き上がった。
ここで、背後の仕切り役の女が、
「名前は菱田百合子さん、名門大学で文学を学ぶ21才の女子大生よ」
と、胸を張って言った。
「ええっ、21才ですって?・・・信じられない」
顎にたっぷり贅肉のついた女が、ちんまりとした手でわざとらしく口を塞いだ。
『信じられない』と言ったのは、21才なのに老けていると見たのか、若い女が老人と結婚するということなのか、判然としない。
困った顔の老人を尻目に、仕切り役の女が、
「知り合ってまだ一週間です。私にも、にわかに信じられないけど、こうして公開プロポーズしたのだから、あとは百合子さんとじっくりおつきあいしたらいいと思います」
と言った。
「公開プロポーズですって。・・・名前も知らないのに!」
「ああ、安心した。まだ結婚が決まったわけではないのね」
囁き声がさざ波のようにひとの輪に広がった。
誕生パーティーの跡かたづけが終わると、仕切り役の女は吉岡美知子と名乗り、老人の亡くなった後妻の連れ子だと言った。
母親の裕美子が美人女優の真理まりえにそっくりだったというのに、実子の美知子は似ても似つかない。
噂のように、母親の裕美子は整形美人だったからなのだろうか?
むしろキツネのような細い吊り上がった目と細い顎からして、油断のならない女のように思えた。
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