18 これはただの昔話

 俺は懐中時計首にかけた黒いうさぎを追いかけて不思議の国のアリスの如く落っこちる


 ひゅーんと下へ 

 底の知れない井戸に似た空間へ

 まっくらやみの穴の中へ


 どこまで続くのかも分からない


 どこに向かうのかも分からない


 黒いうさぎを追いかけた先は青鬼くんがいるおとぎの国じゃないかも知れない。

 今度落ちる世界はもしかしたら地獄かなにかかも知れない。

———これは全部、馬鹿な自分の馬鹿げた夢の中かも知れない。


 でもそんなことはどうでもいいことだ。


 どこに向かっているのかも分からず黒いうさぎを追う

 どこに向かうか知るよしもなく真っ直ぐ黒いうさぎを追う


 体が宙に浮かびながらも落ちていく中、ふと思った。

 もしかしたら、青鬼くんが本物の赤鬼くんに向ける感情は、今の俺と似た気持ちだったかも知れない。


 会ってちゃんと謝りたくて

 ただただもう一度会いたくて

 でもどこにいるのか分からないから、どうすればいいか分からなくて…

 

 ずっと後悔しながら、挙げ句の果て行く宛もない、なんの意味のない赤鬼くんへの手紙を、1人で泣きながら書いていたのだろうか


—————そう思うと胸が苦しくなった。


 俺は赤鬼くんじゃない

 青鬼くんの友達の赤鬼くんじゃない

 真っ赤な赤の他人だ。



「…ごめん青鬼くん」



 ぐちゃぐちゃになった胸の中

 ぐちゃぐちゃになった頭の中で

 青鬼くんのことを思う。


 いつの間にかに溢れていた涙を手で拭い、ぐちゃぐちゃの泣き顔で夕立は怒りに似た決意をする。


 ただただもう一度会いたい。

 会って嘘をついてたことをちゃんと謝って、今の気持ちを素直に伝えよう。


 そして、必ず………。


 絶対に、『泣いた赤鬼』みたいになってやるもんか




「『悲惨な結末』になんか絶対に、絶対にしてやるか…!!」
















『これはただの昔話。摩訶不思議なおとぎの国に招かれた、夢見る夕立の話』

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