14 灰色の夢

 おかしな夢を見たそんな夜の日、俺は灰色の夢を見た。

 誰かの泣き声が聞こえてくる。


「うう…」


(これは、青鬼くんの声…?)


 徐々にふんわりと情景が浮かび上がる。

 そこにはバグくんと青鬼くんがいた。


「バグくん、赤鬼くんが何処にいるのか占って!バグくんの占いはよく当たるって聞いたんだ!探し物を見つけるときは、バグくんの占いで見つけて貰えばいいって!お金なら沢山貯金してあるからいくらでも払えるよ!」

「お金はいらないよ、じゃあ占って探すね」

「わー!ありがとうバグくん!!」


どうやらカードで占っているようだった。

するとバグくんは顔を曇らせる。


「バグくん、何処にいるかわかった?」

「あっ…えっと」

「どうしたのバグくん?」

「えっと、赤鬼くんは…」

「……?」

「わ、分かんない…」

「……で、でも、バグくんの占いは必ず探しものを見つけてくれるって…!」

「その……多分………」


 バグくんは重い顔でなにかを青鬼くんに伝えようとする。

 しかし、青鬼くんは何かを察して話を遮った。


「あっ……!そ、そっか!分かんないなら…仕方ないねっ!うんうん!じゃあ僕そろそろ帰るね!またねバグくん!」

「……うん……ごめんね……」



 情景がまた曇る。

 するとさっきとはまた別の服を着た青鬼くんとバグくんがいた。


「毎日探しても、赤鬼くんは見つからないだ」

「うん…」

「だからもう、いいや!ねえ、バグくんは悪い夢を消すことができるでしょう?だから僕の悪い夢を消して欲しい!」

「青鬼くん、それは悪い夢じゃないよ…」

「僕はずっとずっと『赤鬼くんに会いたい』って夢見てる。………でも、どこを探しても見つからなかった。苦しいんだ。」

「………」

「夢を見るのも、つかれた。現実を見るのも、いやだ」


「だからもう、こんな夢、消えて欲しい」

「青鬼くん……」

「そうすればさ!きっと…」


 いつもの笑顔で、見たことないほど黒い瞳で、青鬼くんは言う。








「楽になれるでしょ?」









「!!!!」


 俺は思わず飛び起きる。

 時計を見るとまだ朝の6時前だった。


「………はぁ…」


 俺はため息をつく。

 とんでもない夢を見た。


「はぁ……あんなのただの夢だ…」


 おとぎの国も、青鬼くんも、今見た夢だって、ただの夢だった…。


 そして夕立は、青鬼くんに酷いことを言って別れた日のことを思い出す。




「…………胸が苦しい…」


 俺はベットから起き、落ち着かないままリビングへと向かう。

 すると母さんが朝ごはんを作っていた。


「おはよ」

「……おはよ」

「めずらしいね、こんなに朝早くに起きて、悪い夢でも見た?」

「……まぁ、そんなところ。………………あの…さ、昔読んでた本ってどこに直したか知ってる?」

「朝から急にどうしたの?」

「懐かしくなって読みたくなっただけだよ」

「それならあんたが小さい頃に押し入れの奥に自分で入れてたでしょ、忘れたの?」

「ああ…そういえば、そうだった…」


 そうだ、あの日、幼なじみに、クラスメイト達に馬鹿にされて、自分で押し入れの奥に全部しまったんだった……。



 夕立はどこに直したのかを思い出し、開かずの間と化した押し入れ前に立ち、開ける。


「うわぁ…」


 すると奥から埃を被った本達が大量に出てきた。埃を被りすぎて、引いてしまうほど、それはそれは見事な灰色だった。


 手でパパッと払うと、『不思議の国のアリス』とかかれた絵本が出てきた。

 他も次々に払い除ける。『ピーターパン』や『シンデレラ』なんかも出てきた。


「懐かしいな…」


 次から次へと灰色から色づいた顔を出す本達を見て、夕立の顔に自然と笑みが浮かんだ。


 次へ次へと払っていくと、ようやく『泣いた赤鬼』がでてきた。


 パラパラと読んでいく。


 泣いた赤鬼のその後なんて考えたことがなかった。いや、小さい頃、一度だけ考えたことがある気がする…。


 そうだ、この2人はもう二度と会えなくなってしまう未来を想像して悲しくなったんだ。

 それで、悲しくなって…すぐに考えるのをやめて———————でも、悲しい終わり方が嫌で、後から何かを思いついた気がする。


しかし、うまく思い出せない。


「夕立!そろそろ練習行かないと遅刻するわよ」

「えっ…?」


気がつくと時計の針が8時をまわっていた。


「ま、まずい…」


俺は急いで支度をし、いつもの練習場所へと向かった。

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