12 これは僕の夢物語
青鬼くんは悲しそうな顔をして俺に聞いてくる。
「…なんで?」
「なんでって帰らなくちゃ」
「ここはこんなに楽しいのに、なんで」
「明日、野球の練習あるし…」
「野球…野球ってそんなに楽しいの…?」
「………それ、は」
言葉が詰まる。
「ここで遊ぶより野球の練習の方が楽しいの?」
「……いや、野球の練習なんて全然辛いだけで楽しくないし、ここで遊ぶ方が楽しいと思う…けど」
「じゃあなんで野球しにいくの?辛いのに、楽しくないのになんで野球しに行くの?」
青鬼くんの質問に俺は胸が苦しくなる。
そして、どうにか言い分を考えた。
「……それは…みんな、やってることだから…。楽しくなくても、頑張らなきゃいけなくて…それに、期待されてるし、楽しくなくてもみんなの期待には応えたいっていうか…」
「赤鬼くんは、楽しくないのに……?赤鬼くんが楽しく過ごせることが1番大切なんじゃないの…?」
俺は、青鬼くんの言葉を真正面から受け止めきれず俯く。
「…………」
「やっぱりさっ!野球やめてここで遊ぼうよ……!」
「やめることは…………そんな、簡単なことじゃ、ない」
「簡単だよ!やめますって言えばやめれるんでしょ、だったら……!」
「…………いい加減にしてくれ」
「あ、赤鬼くん…?」
夕立の声が震える。
夕立は独り言のように話し出す。
「やっと、出来た居場所なんだ。みんなが俺を好いてくれて認めてくれる場所なんだ。苦しくっても、辛くっても、簡単に辞めることなんてできない」
「もし突然野球をやめて、仲間から嫌われて後ろ指をさされたらどうするんだよ、本当は野球選手になんかなりたくないって知られて、『本当は野球好きじゃなかったのか』って落胆されて、先輩から後輩まで変な奴だって白い目で見られて、大切な人たちに嫌われたらどうするんだよ」
怖い
「これ以上……やめてくれよ」
夢を思い出させないでくれ
『馬鹿みたいな話を作る作家になりたいんだっけ?』
『夢見てるお前にお似合いだな!』
『あはははははははははっ!!!!!!』
「俺は馬鹿な夢なんてもう見ない。」
作家になりたいなんてもう思わない。
いつも、そうだ。
少し思い出すだけで、あの日の幼なじみやクラスメイト達の笑い声が鮮明に聞こえてくる。
幼なじみも、クラスメイト達も、おとぎ話も本も夢も、全部全部全部、比べものにならないくらい、大好きだったのに… 。
あの日の恐怖を夕立は思い出す。
大好きな幼なじみ
クラスメイト達
おとぎ話
本
夢
いとも容易く
一瞬にして
全部、
全部、
全部、
————————大嫌いになった。
夕立の目からポタポタと涙が落ちた。
「ここにいると頭がおかしくなる。馬鹿馬鹿しい夢は、もうみたくない。」
苦しいだけだ
「こんなところ全然楽しくない」
消えてくれ
「お願いだから、消えてくれ」
夕立は必死に、涙混じりに言い放つ。
青鬼くんと夕立との間に長い沈黙が流れる。
「…………」
「………ごめんね、僕、そんなつもりなかったんだ。ただ赤鬼くんが…君が、どこか苦しそうだったから。だったら、ここいた方が楽しいんじゃないかって、幸せなんじゃないかって思って言った言葉だったんだけど…。でも、君を傷つけちゃったみたい……。」
「…………」
「信じられないかもしれないけど、そんな、悲しませるつもりは、全然、なくって……ごめんね………」
「…………」
「今までありがとう、僕の夢に付き合わせちゃって、ごめんね、もう大丈夫だよ」
「…………」
「これは全部、僕の夢物語」
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