11 エンドロール
青鬼くん連れられ広間にたどり着くと、紙芝居のフレームみたいな大きな建築物がドンッ!と建てられていた。
用途が理解出来ず『なんだこれ…』と夕立が思っていると『ガタン』と紙芝居のフレームみたいなものから大きな音が鳴る。
大きな大きなフレームがガタガタガタガタと音を立てながら開いていき、中から沢山の楽器を持った人達と、仮面を被った4人の怪しげ男の人たちがいた。
楽しげなオーケストラが鳴り響き、観客はみんな「ワーー!」と歓声を上げる。
すると、1番端っこのおかめの面を被った男が歌い出した。
「おとぎ話の 王子でも
昔は とても 食べられない
アイスクリーム アイスクリィーム」
(パラッパー)
落ち着いた歌声の中トランペットの音が響き渡る。そして次はひょっとこの面を被った男の陽気な歌声が響き渡った。
「ぼくは 王子では ないけれどっ
アイス クリイームを 召し上がるっ」
狐の面の男と鬼の面の男も続いて歌い出す。
「スプーンで すくって ピチャッ チャッ チャッ」「舌にのせると トロントロッ」
『のどを音楽隊が 通ります』
間奏でトロンボーンの音が心地よく響き渡る。その後はサックスに切り替わりこれまたカッコいい音を響かせた。どちらもレトロでオシャレな気分にさせる大人っぽい音だ。
「ブカブカ 『ドンッドン! 冷たいね』」
「ルラ 『ル〜ラ ル〜ラ 甘いね』」
「チー『タカ タッ!タッ!タッ!! おいしい ね!!』」
『アイスクリームは たあ〜〜のしぃ〜いぃ〜ね!』
大人っぽい、おしゃれでおちゃめでダンディーな4人の声が広場に響き渡ると、激しいテンポから突然ゆったり、ゆ〜くりとした曲調に変わる。
それと同時に、さっきまで明るかった空が夜みたいに薄暗くなり、オーケストラと4人の男達にのみスポットライトが当たった。
ラストは物語のエンディングを迎えるような、優しい歌と音色だった。
『おーとぎ〜ばなしぃ〜のぉ〜 おーうじーでも
昔ぃーはぁー とっても〜 食ぁべられない』
『アイスクリ〜ム アイス クリームーーーーーーーーーー』
素晴らしいオーケストラと歌声のハーモニーが響き渡った。終わりとともに大勢の観客が拍手をする。キラキラとした銀色の光が降り注ぐ中、紙芝居を閉じるように扉が徐々に閉まっていった。
夕立はその光景に呆然とし、余韻に浸る。
幼稚な歌なのに…『大団円』というかっこいい言葉が似合う気がした。
大の大人が、『アイスクリームのうた』なんて、子供の歌を楽しそうに歌っていた。
(子供の歌なのに、なんでだろう、なんでこんなに胸が高鳴るんだろう。)
「……すごかったな」
『アイスクリーム』の歌を聴いた観客たちがみんな楽しそうに、幸せそうに帰っていく。
「すごいな…」
子供の頃に観た、おとぎ話の映画のようなライブだった。子供の頃のワクワク感やドキドキ感を思い出させてくれるような、そんな…
夢を見てる気分だった。
『馬鹿みたいな話を作る作家になりたいんだっけ?』
『夢見てるお前にお似合いだな!』
『あはははははははははっ!!!!!!』
「………。」
俺は、現実に戻らないと…夢から覚めないといけない気がした。
だから俺は青鬼くんを呼んで、先程カフェで聞きそびれたことを話そうとする。しかし…
「青鬼くん…ってあれ?い、いなくなってる…。」
そういえば先程から青鬼くんが見当たらない。
いつの間にか青鬼くんがどこかにいってしまったらしい。
俺は青鬼くんを探そうと歩き出そうとしたが、周りにはまだ大勢の観客で賑わっていて、この人混みの中で青鬼くんを見つけ出す自信が湧かなかった。
どうしようかと立ち止まって困っていると、遠くで青鬼くんの声が聞こえてくる。
「赤鬼くーーーん!」
青鬼くんは人混みをかき分け戻ってきた。
そして青鬼くんの手にはカップアイスが二つ握られていた。
(なぜアイス…?)
「はい、青鬼くんの分!」
「えっ…ああ、ありがとう」
「アイスクリームの歌が終わった後は無料でアイスクリームを提供してくれるんだ!」
「へー…変わった風習(?)だな」
「へへっ、だからこの街のみんなはアイスクリームの歌が大好きなんだよ!」
周りを見渡すと、みんなが楽しそうに笑ってる。みんなが幸せそうに笑ってる。
「そっか…良いな。………楽しくっておかしくって良いところだなここ」
夕立の、心からの言葉だった。
「そうでしょ!!だからっ…!」
夕立は夢心地のような気分で青鬼くん告げた。
「青鬼くん、俺、そろそろ帰るよ」
物語にはかならず終わりがある。
これが俺の夢ならば、自分で終わらせなければいけない。そう…早く現実に戻らないと、また、子供騙しの物語を信じる夢みがちな馬鹿な自分になってしまう気がする。
馬鹿で、大嫌いな自分に戻る前に
「早く夢を終わらせたいな」
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