10 レトロなお茶会
鏡を抜けると懐かしさを感じさせるような空間、いや、町が広がっていた。
町全体におかしなところはあまりなく、強いて言うなら、町全体が少しだけ彩豊かなことと、白色の郵便ポストが置いてあったり、小さな小さな鳥居があったりすることだろうか。
人もちらほらみかけ、着物を着た人や羽織を着た人たち…。つまり、日本っぽい服装をしている人たちが目立つ。
そして、なぜか、街で見かける人たちのほとんどが仮面をかぶっていた。
「ここはわらべ町だよ。ちなみに僕、ここに住んでいるんだ〜、あっそうだ、確か家にカフェの割引券があったから取ってきても良い?」
「家?」
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青鬼くんの家に向かうため、5分程歩くと青い屋根の小さな小さな一軒の家が見えてきた。
「あれが青鬼くんの家?」
「そう!待ってて、すぐに取ってくるよ!」
青鬼くんがそう言い残すととタッタッと軽快に家の中に走っていった。
俺は外でじっと青鬼くんの家を見ながら待つ。
(二階建てか、青鬼くん一人で住んでるのかな?…いいな〜一人暮らし…)
そんな風にぼーとしながら一人暮らしを羨ましく思っていると、すぐに青鬼くんが戻ってきて持ってきた割引券を見せてくれた。
「割引券あったよ、ほら!」
割引券を見ると招き猫の色あせたイラストが描かれており、イラストの上にはカタカナで『レトロ』と書かれていた。
(レトロ?レトロって確か『古い』って意味だったけ?)
「割引券招き猫が描かれててて可愛いでしょーそれじゃあ早速行こっか!こっちだよ!」
俺は青鬼くんに言われるがままついていった。
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また5分ほと歩くと『レトロなお茶会』と書かれたお店にたどり着いた。
外装は、現実世界でもありそうなお洒落な外装だった。
青鬼くんがカラカラと心地良い音が鳴る扉を開ける。目の前にはレジとカウンター、キッチンがあり、レジの隣には招き猫が置かれていた。
すると突然、招き猫が喋りだした。
『いらっしゃいにゃせ〜』
招き猫が生きてるなぁ…と夕立は思う。
そんじょそこらのものじゃ、あまり驚かなくなってきた。
『右が和風、左がレトロ風。どっちに座りたいかにゃあ?』
(和風??レトロ風??)
右奥を見ると日本の和を感じさせるような趣深い空間が広がっており、左奥をみると、どこか懐かしさを感じるようなレトロな空間が広がっていた。
「僕はどっちでもいいけど、赤鬼くんはどっちがいい?」
「俺もどっちでもいいけど、出来るなら近くに座っているお客さんが少ないところがいいな…」
青鬼くんが周りを見渡す。
「うーん、今日は右が空いてるかもね、あっ!あそこのガラス窓の場所とかどう?」
青鬼くんの質問に夕立はうんうんと首を縦に振る。大きなガラス窓のすぐ横には2人分の木のテーブルと椅子があり、夕立と青鬼くんはそこに座わった。
それからしばらくして、奥から着物にエプロンをしてい、頭に大きなリボンがついた店員さんらしき女性の人がでてきた。
後ろにタヌキの尻尾がついていること以外は…普通の人だ。
店員さんは俺たちにメニューを渡してくれる。
「ご注文が決まりましたらベルを鳴らしてお呼びかけくださいませー」
「ありがとうございます」
「はい、メニュー」
青鬼くんがメニューを渡してくれる。
見てみると至って平凡なメニュー表だった。
「じゃあ、水で…」
「えっ飲み物たくさんあるけど、デザートもいらない…?お腹すいてない?」
「確かにお腹すいた…けど、お金持ってないし…」
「気にしなくていいよ!ちょうど割引券あるし使い切りたかったところだから好きなだけ注文して!」
「………じゃあ、抹茶プリン…頼もうかな…」
「抹茶プリン…?赤鬼くんって抹茶が好きなんだねー知らなかった!」
「青鬼くんは何食べるの?」
「僕は食べ物はいらないかな、ドリンクだけでいいや!赤鬼くんが寝ている間にバグくんのお店でご馳走になったからね」
「そうだったんだ」
「うん!じゃあ注文するね、すみませーん!」
青鬼くんがベルをチリンチリンと鳴らす。
注文を青鬼くんに任せ、夕立は疲れた様子でぐだ〜と机に頭を置いた。
またしばらくしてから下駄をカツカツッと鳴らしながら、少し駆け足気味にさっきの店員さんが出てくる。
少し忙しそうだった。
「お待たせしました、ご注文をどうぞー」
完全に気を抜いていた夕立だったが、次の瞬間、青鬼くんがとんでもない発言をした。
「抹茶プリンと、『コーヒー』でお願いします!」
「!??」
驚いている夕立をよそに、青鬼くんと店員さんは普通に話をする。
「ホットかアイス、どちらがよろしいですか?」
「ホットで」
「かしこまりました、しばらくお待ちくださいませ」
コーヒー…だと…?
青鬼くんが、コーヒー??
思わず俺は青鬼くんに聞いた。
「コーヒーって誰が飲むの?」
「えっ?僕に決まってるでしょ?」
「………」
コーヒーなんて苦すぎて俺は飲めないのに…なんだか、負けた気分だ…。
「おまたせしました〜抹茶ラテと抹茶プリン、コーヒーになります。」
さっきと同じ店員さんがまたすぐにやってきて、テーブルの上に抹茶プリンとコーヒーが置かれる。
抹茶プリンの上には生クリームとさくらんぼがちょこんと乗せられていた。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます」
「レシートここに置いておきますね、ごゆっくりどうぞ〜」
店員さんが行った後、目の前にある抹茶プリンとコーヒーを見比べる。
夕立はまた、青鬼くんに負けた気分になる。
「………では…いただきます」
「どうぞどうぞ!」
気にしても仕方ないと思い夕立はパクりと一口抹茶プリンを食べる
「!!」
美味しい!絶妙に甘すぎず、抹茶の苦さをほどよく残している。美味しい!!
俺が幸せそうに食べていると、青鬼くんはジッと俺を見る。
「なんでずっとこっち見てるの…?」
「あっ!いやごめんごめん!…なんか、幸せだな〜て思って」
「ええ……人の食べてるところみて幸せになるとか…変わってるな…?」
「そう言われるとそう見えてもおかしくないけど…うーん、ちょっと違うかもな〜」
青鬼くんは少し下を向きながら寂しそうに言う。
「僕は、ずっと夢見てたんだ」
「…?よく分からないけど、青鬼くんもコーヒー飲まないの?」
「そうだね、いただきます」
ごくりと青鬼くんはコーヒーを飲んだ…。
そして夕立はコーヒーを飲む青鬼くんを不満げにジッとみつめる。
「…………」
「じっと僕をみてどうしたの?」
「いや、なんでもない…」
「そう…?」
『俺はコーヒー飲めないからコーヒー飲めてすごいね!』なんて言えない。言いたくない。
こんな子供っぽいこと言ったら笑われる気がする…。
複雑な感情を抱きながら俺は抹茶プリンを食べ進めると、突然何か思い立ったかのように青鬼くんが喋り始めた。
「赤鬼くん、今から僕が面白いことをしてあげるよ!この時計見て」
「?」
そう言った後、突然青鬼くんが首にぶら下げていた懐中時計を持って何か始めようとする。
この時、夕立は『マジックでも始めようとしているのか』と思っていたが予想は外れる。
夕立がボーと何をするのか見ていると、青鬼くんがコーヒーの中に懐中時計を落とした。
ただただ無意味にコーヒーの中に時計を落とした。
「え…なにやってんの??」
「あははっ!すごく驚いてるね!」
俺は青鬼くんがヤバいやつに見えてきた。
「もし、時計が壊れたらどうするんだよ…しかも高そうだし」
「大丈夫だよ、これ魔法で守られてるから壊れないんだ、ほら」
コーヒーの中に入った時計を持ち上げると水滴が一切付いていない懐中時計が現れる。
確かにカチカチと音を立てて時計は生きているようだった。
「凄いでしょ!面白いでしょ!しかも絶対汚れない!」
青鬼くんが自慢げに話をするが、俺にはそれがどれだけすごいことなのかを、いまいち理解出来なかった。
「すごいことが面白いことかよく分からないし…汚れてないかどうかも良く分からん」
「え〜…!結構すごい魔法らしいのに…もっといい反応貰えると思ったんだけどな〜」
青鬼くんは残念そうにし、先ほどまで懐中時計が入っていたコーヒーを再び飲もうとする。
そして俺は思わず聞いた。
「そのコーヒー飲むの…?」
「えっ?うん」
「一度物が入った飲み物を君は飲むのか…」
「ええー汚れてないって分かってたら僕全然気にならないけどな」
なんら気にせず青鬼くんは再びコーヒーを飲み始める。
(大雑把な性格だな…太一みたいな奴)
青鬼くんと懐中時計をまじまじとみながら、俺は残った抹茶プリンと食べる。
2人で静かに飲み食いしていると、ふと夕立は青鬼くんとこの世界に来た時のことを思い出す。
(ここが夢だとしても、念のために聞いておかないとな…)
夕立は、抹茶プリンを食べ終わった後に、青鬼くんにあることを聞いた。
「青鬼くん、一応…念のために聞きたいことがあるんだけど」
「どうしたの赤鬼くん」
「元の世界、人間の世界に帰るにはどうしたらいいの?」
「………!」
青鬼くんは静かに驚き、そのまま下を向き、俺に質問を投げかける。
「赤鬼くんは、人間の世界に帰りたいの?」
「勿論だよ」
「どうして?」
「どうしてって…明日野球の練習があるし……」
青鬼くんの様子が段々おかしくなり、夕立が少し困惑しながら話を進めていると鳩時計が顔を出し、大きな音でしゃべり始めた。
(パタッ)
くるっぽー くるっぽー 3時― おやつの時間ですー
くるっぽー くるっぽー アイスの日ですー
(バタンッ)
「あっ!アイスの日だ!!!」
鳩時計が何かを知らせた後、青鬼くんが話を逸らすように大きな声を出す。
「ア、アイスの日…?」
「アイスの日はレアなんだよ!!広間に行こう赤鬼くん!ほら早く!!」
「ええっ?話はまだ終わっ……!?ちょっと待ってって…!?」
話を聞かない青鬼くんに強く腕を引っ張られ、カフェを後にし、仕方なく俺は青鬼くんに着いていった。
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