5 ようこそ、おとぎの国へ

真っ暗闇の中、2人は駆け抜ける。


「ちょっと待て!」

「どうしたの赤鬼くん?」

「暗い道で走ると危ないから、歩こう」

「確かに…!お店に早く行きたくて、つい先走っちゃったよ」


 一瞬夕立は、ローカで走る生徒を注意する先生になった気分になる。


「それにしても暗いな、まるでお化けが出てきそうな…」


 口に出しながらそんなことを考えてると、タイミングよく後ろから光が差し込み…




『おまえ』




背後から急に恐ろしい男性の声が聞こえてきた。




『こたえろ』



『おまえは にんげんか』




夕立は石化した。

あまりの怖さに石化した。


青鬼は、夕立が石化していることに気付かずに、後ろを振り向き、恐ろしい声の男に話しかける。


「あっ!門番さん!こんにちは〜」


(軽すぎる!怖いもの知らずかこいつは!!)


 心の中で青鬼くんにツッコミを入れていると、後ろの男がまた声を出す。

 そしてこう言った。


「ああ!青鬼くんじゃないか!こんにちは!」


 夕立は驚く。

 先程まで恐ろしい声をしていたのに、急に人が変わったかのようにフレンドリーな軽い男の声に変身したからだ


「いやっ!おかしいだろっ!!」


 思わず振り返ると、そこには大きな大きな鎧の男が立っていた。

 あまりの大きさに夕立はガタガタの体を震わせる


「赤鬼くん、大丈夫だよ!門番さんは怖くないよ」

「すまない、怖がらせてしまったみたいだね。侵入者かと思ったんだ、怖い声を出してすまなかったね…」


「………ど、どう、も」


 会話してみると意外と優しそうな雰囲気がある人だった。


「紹介するね赤鬼くん!ここの門番をしている門番さんだよ!」


 青鬼くんが俺のことを紹介すると門番さんは首をかしげた。

 そして門番さんは青鬼くんに質問をする。


「彼は…鬼、なのかい?」

「そうだよ、僕が連れてきたの!でも、人間の世界に何百年も暮らしていたから鬼の血がとても薄くなってるみたいだけど…」

「人間の世界に住むとそんな状態になっていくのか…。ふむ、しかしやはり、ツノがないから人間に見えるね」


 門番さんの言葉に思わず夕立はドキリとする。

 門番さんは青鬼くんに変わって、次は俺に質問を投げかけた。


「君、おとぎの国入国許可証はもっているかな?」

「きょ、許可証?」


 俺がなんのことか分からずに困っていると、青鬼くんが話し出す。


「赤鬼くんはずっと人間の世界にいたから証明書は持ってないよ」

「ふむ…おとぎの国に新しく入る人には必ず入国許可証が必要なんだ。」


 そういうと、門番さんは入国許可証らしきカードを見せてくる。


「遊園地の入場チケットみたいなものだね」

「カードのデザインも色々あるんだよ!」

「そうなんだ…」


 遊園地の入場チケットと言われて俺は少しホッとする。


「それじゃあ夢夢屋に行っておとぎの国入国許可証を貰ってきてくれないか、一応決まりだからね」

「うん、わかった。元々夢夢屋に行く予定だったから安心して!」


 よくわからない話を二人はしている。

 夕立はなんのことだかさっぱり分からない。


(『夢夢屋』って一体なんだ…?)


「あと、赤鬼くんに一つお願いしたいことがあるんだが聞いてくれるかな?」

「は、はい?」

「青鬼くんから離れないでくれないか?」

「は、はい…。あの、どうして離れてはだめなんでしょうか?」

「君はおとぎの国人国許可証を持っていない。現時点だと人間だと思われて牢屋に入れられる可能性があるんだ。」

「牢屋!!?」

「大丈夫、おとぎの国に住んでいる同伴者が近くにいれば問題ないからね」

「ち、ちなみに牢屋に入れられるとどうなるんですか…?」

「それはー…その」


 先程まで門番さんはすらすらと許可証について説明してくれたのに、急に歯切れが悪くなった。


「………」

「………」


 門番さんは何も言わずコクリと頷く。


「牢屋に入れられるとどうなるんですか!?」


 門番さんは俺の呼びかけにまたしても答えてくれず、呑気に手を『グッジョブ!』の形にする。


「全然わからないんですけど!」

「じゃあ二人とも、おとぎの国を楽しんできてね」

「ありがとう門番さん!お仕事頑張ってね!」

「いやっ話はまだ終わってないですよっ!!」

「赤鬼くん!門番さんの仕事の邪魔しちゃだめだよ」


 青鬼くんに手を掴まれ「あっちだよ!」と声をかけられながら引っ張られる。



「も、門番さんーーーー!!?」



 門番さんから遠のく俺たちを、遊園地のキャストさんみたいに門番さんが手を振って見送ってくれる。表情は見えないが、門番さんは心なしかにこやかな顔をしている気がした。



「門番サーーーーーーーーン!!!」



しかし俺は、遊園地に行くような気分には当然なれやしなかった。

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