第2話 魔王様の電撃結婚。旦那様は人間ですよ?
魔王軍との熾烈な戦いは、辺境に近いデンエン王国にとって非常に厳しい物であった。
他国も同様に別の魔王が率いる軍隊に攻められ、地理的に魔王軍に攻められるのは後となる国家が連合軍を作り、戦力や物資の支援をして世界規模の戦争となっていた。
最初に魔王軍の侵攻を受けてからたったの1年だった。
デンエン王国にルクセル・フォン・ゴルデン魔王が率いる魔族総攻撃が行われたのは。
王国を囲む程の魔物が集結し、逃げ場のない戦い。
デンエン国領内は既に魔王の手に落ちていた。
国民が絶望に身をゆだねた頃、同盟国に国民を逃がす準備の為に、単身王国から出ていた宰相の高橋が戻ってきた。
城内に直接空間移動すれば良いのに、高橋は単身バトルアックスを振るい魔物を蹴散らした。
前線となる城壁の上に居た王は見た。
「高橋君、駄目だ!!逃げるんだ!!」
しかし高橋は魔王を目指して一気に駆け抜けた。
覇気に圧された魔物たちが少し身を引いた。
魔王ルクセルは振り向き、同時に攻撃してきた高橋に向かって魔王の目・マヒを使った。
しかし高橋はマヒを鏡ではね返し、魔王にバトルアックスを振り下ろした。
「あがっ……」
はね返されたマヒの能力は城壁の上に居る国王に当たった。
「なっ……」
バトルアックスが切ったのは魔王の額の角だった。
角は地面に落ち、はね、高橋がそれを拾う。
高橋はそれを一瞬見ると、角の先をくわえ、再びバトルアックスを回転させる。
バトルアックスの刃先をかわし、魔王は高橋を凝視する。
角をくわえた高橋は、不気味な笑いをたたえているように見えた。
「貴様…私は魔王ルクセル・フォン・ゴルデン!!名を名乗れ!!」
「あなたが襲っているデンエン王国の宰相、高橋新です」
「タカハシアラタ?タカハシが名なのか?アラタが名なのか?」
「…あなた方魔族は名の方が先でしたね。でしたら新高橋と言いましょうか」
「そうか。では高橋よ」
高橋はバトルアックスをいつでも振り回せるよう構える。
「私の夫となれ」
「「はっ!?」」
周囲の魔物が驚きの声をあげた。
「「はっ!?」」
城壁の国王や兵士たちも驚きの声をあげた。
高橋は構えを崩さない。
「何故です?」
「貴様が私の角を切ったからだ」
「魔族は角を切られたら嫁入りする掟とかあるのでしょうか?」
「ないが、傷者にされたので当然の権利だと思うが」
高橋は素早く頭を回転させた。
この魔王、かなりの阿保かもしれない。
しかしこれで戦争を終わらせれるなら自分一人が犠牲に…ふと、この戦争が始まる前の事を思い出した。
宰相になるまではただの貴族の息子で、城内の雑用をこなす事務職であった。
一応貴族の息子らしく婚約者はいたが、忙しくて放置しているうちに好きな方ができました、と去られてしまい、前宰相が引退する際に宰相にならないか、と昇格した途端あふれるように来た見合い話を受ける暇もなく引継ぎをして奔走していたら、不憫に思ったのか国王が娘を嫁にやろうか?と言われていたのだった……。
つんでいた。国王直々に言われれば断れない。しかも王女なんて妻に持てば気が休まるはずがない。
ありかもしれない。
「………私の妻になるのなら、当然この戦争は終わらせなくてはいけません。私はこの国の宰相であり、我が国に牙をむく者を許す事はできません。それと、結婚後も魔王は続けるのですか?」
「魔王は私より強い者が現れない限り交代はしない。兵は引かせる。他の魔王たちは協力関係ではないのでいかようにでもしろ」
「わかりました。共働きとなるのですが、家の事はメイドや執事を雇いましょう。仕事に休みはないのですが、そちらの休みがあるのならできる限り合わせます。それでよろしいですか?」
「かまわん。魔物達よ!!ゴルデン王国領に戻れ!」
魔王の命令である。一部の幹部以外、指示を聞くしかない。
唖然としたままではあるが、王国を包囲していた魔王軍の兵士はほぼ去って行った。
「魔王様、あの……」
幹部の一人が恐る恐る声をかける。
「何だ?」
「……いえ、まずはご婚約をして頂き、次に結婚式でよろしいでしょうか?場所は人間の王国と魔王国、どちらで致しましょうか!?」
流石に人間と結婚だなんて、と言える猛者はいない。
弱肉強食。力こそ全て。魔王とは魔族の中で頂点に立てるほどの強さを示しているから魔王なのである。
婚約は終戦宣言とほぼ同時に準備し、指輪ができ次第行われた。
魔王軍が進軍中に拉致した国民は速やかに返されている。
デンエン王国を攻めてきた魔王軍は、労働力となりそうな人間だけを拉致し、それ以外の人間には手を出さなかった。
おかげで結婚式はデンエン王国でも歓迎された。
他国はまだ戦争をしているところもあるので、あまり大げさにはできなかったが、高橋は魔王軍を退けた英雄として扱われ、デンエン国王は世界で初めて魔王国で開かれた披露宴に参列した王となった。
高橋は城下に屋敷を購入し、魔王はそこから魔王領に出勤する形で生活する事に決まった。
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