第3話 魔王様のお留守番…しません!

披露宴からそのまま数日、魔王国領で休暇を過ごす事となった。

デンエン王は披露宴が終わったその場で王国に帰り、高橋の休暇分を埋めるために部下と試行錯誤をしていた。


「そういえば、あらたの両親は死んでいるのか?」

「結婚式でも出てこなかったからですか?生きてはいますが縁を切りましたので」

「何かあったのか?」

「私が次男なので、兄が家を継げなかった時の為に生きてきましたが、無事家督も継いで結婚して子供もいますので家には不要な存在となり、王城で働いているうちに忙しくて特に連絡していなかったら、居ない者とされていましたね」

「…人間冷たいな」

「貴族だとよくある話しですよ。魔王様の方は逆に親子仲良くて良かったです」

「うむ、うちは父上が竜王で母上がサキュバスだから相性が良いそうで、私が毎年やる王位争奪戦で1番になったら、国政?しているより夫婦で仲良く旅行とか行きまくりたいという理由で王位を継がされたぐらいだしな」

「お義父さんが現役でなくて良かったです」

享楽主義な魔族らしくて良いが、王位を娘に譲っていなかったら今頃デンエン王国は滅んでいただろう。


こんなにのんびりできる休日も無かった。

とはいえ、家に持ち帰ってきた書類は山の様にあるのだが。

「休日なのに仕事せねばならんとは、事務職は大変じゃのぅ」

「昔より楽ですよ。城でやっていたら山がさらに増えますし、確認して良ければ判を押し、駄目なら再提出にさせるだけの分だけですから」

「ん?それは私がしている仕事と変わらんぞ」

「魔王様の仕事は国王様の仕事と同じでしょう。その下の者は王に見せる前に判断して問題がない物だけ王に出しているんですから」

「ふ~ん」


………


「…退屈ですか?もう少々お待ち下さい」

「退屈ではあるが、仕事を邪魔するのは良くないぐらい分かる。仕事をしているあらたを見ているだけ……ん?それは隣国の戦争の書類ではないか?」

「今後支援する側になるのですが、どうも私に来てほしいようで」

「『英雄 あらた殿にぜひにも来て頂きたく…』」

「隣国を襲っている魔王軍も、女性が率いているので、デンエン王国の時の様にうまくやって欲しいと書かれているんです」

「…ほぉ~」

「一度はデンエンの為に顔を出す必要がありますから、妙な期待を持たれても困るんです」

「…ふぅ~ん」

「私の休暇明けにこちらの支援物資を送る時についていく事になります」

「…そうか」





数日後

「良いですか?今日から隣国に行きますが、移動で3日、滞在に2日は最低限かかります。帰宅の際は私だけ帰ってくるので移動は必要ありませんが、滞在期間が不明です。その間何かあったら魔王領の方に居て下さるか、国王様に聞いて下さい。自己判断はしないように」

念を押すように高橋は魔王である妻に言い聞かせる。

とりあえずデンエン王国で問題は起こさない様特に念を押す。

「分かった。大丈夫だ。私も魔王としての仕事があるしな」






「あれがファラガリス魔王軍ですか…」

「雪と氷の魔王だそうです」

隣国バハマディア王国は大きな渓谷を挟んで魔王軍と対峙している。

王国自体が大きな陸の島のような場所に建ち、空を飛ぶ魔物以外近づけない。

近づこうとしても大型弩砲・バリスタの餌食になる。

しかし、魔王軍による総攻撃が始まれば無傷では済まない。

実際何度か総攻撃を受け、疲弊した城内には諦めてうずくまる兵士達ばかりだった。高橋が来るまでは。


「あれが英雄…」

「魔王を妻にした英雄…」

バトルアックスをかついで支援物資を届けに来た英雄を一目見ようと人だかりができる。

近衛騎士達が下がらせるまで、前線を守る兵士達は救い主が来たとまで言い始めていた。


「高橋殿、そなたの活躍はデンエン王からも書状で聞いている。わが軍に少しで良い、希望を与えてやってくれんか?」

「私は兵士ではありません。ただの宰相です」

バハマディア国王の期待、含みを制する。

「お疲れなのはわかります。ですが、国を守ってきた兵士達の為にも勝利はバハマディアの民が手にしなくてはなりません。宰相として言えるのはそれだけです」


国王がそれでも食い下がろうとした時、戦争の鐘が鳴る。

魔王軍が再び、渓谷を渡る橋を架けて攻め込んでくる合図だ。

城壁の上が騒がしくなる。

高橋も王と共に城壁の最先端に移動した。


砂煙を上げて進行してくる魔王軍。

つい最近同じ光景を見たばかりだ。

バリスタが標準を定めようと動き出す。

城壁の近くで魔王軍は進行を止め、準備していたのか、かなり高い台を作り、その上に玉座を置いた。


その玉座に吹雪とともに現れる魔王シィーバ・ファラガリス。

高台すら凍り付かせた。

玉座の横に、魔物達が担いできた磔台が設置される。

「あれは……」


磔台には長髪の女がいた。

見覚えのある金の髪。



魔王軍の使者らしきものが城壁に近づいてくる。

「人間共よ、そこに高橋なるデンエンの者はいるか」

「…私ですが」

視線は磔台に向けたまま、高橋は返事をした。


「貴様の妻、ゴルデン魔王は我らの手に落ちた!これより最後の城攻めをする前に、ゴルデン魔王を処刑する!!魔王を妻にするなど、人間風情が無礼も過ぎるが、妻となった魔王は我ら魔族の恥さらしだ!!そこで大人しく処刑を見守り、その後我らに引き裂かれるまで待っておれ!!」


「お断りします」

言うと同時にバトルアックスが空を飛ぶ。

磔台の腕を固定する金具が、バトルアックスによって破壊された。


魔王シィーバがちらりと視線を磔台に向けた。


瞬間、空間移動で現れた高橋が、落下するバトルアックスを握って残りの金具を破壊した。


魔王ルクセルが台の上に倒れこむ。


高橋は魔王シィーバにバトルアックスを振りかざした。

「貴様が高橋か」

魔王シィーバの目が高橋の目をとらえ、マヒの目を使う。

(しまった!!)

魔王シィーバは立ち上がり、倒れている魔王ルクセルの髪をつかんで高橋が見える位置まで引きずってきた。


「妻が人質とされ、目の前で殺される絶望の顔を見せておくれ」

静かに、冷ややかな口調で魔王シィーバは無表情のまま魔王ルクセルの首をつかんだ。


「ん……」

意識を取り戻したのか、ルクセルが目を開けた。

「…あ!あらた。おはよ…ふぁあ~」


魔王シィーバがふ抜けた声の魔王ルクセルを見た。

「ババア、今日はおめかししておるんだな」


にやりと笑って、魔王ルクセルがマヒの目を使う。

「おぬしに近づくのにはこれが一番だと思うてのぅ」


魔王ルクセルの首をつかんだまま動けない魔王シィーバの胸元に手を伸ばす。

「【ダーク・ドレイン】」

動けずにいたまま、魔王ルクセルに魔力も体力も奪われ、一気に体が干からびていく。

最後にはチリと化して消滅してしまった。


それと同時に魔王シィーバにかけられたマヒの目が解けた。


「ファラガリス魔王軍よ!!貴様らの魔王、シィーバ・ファラガリスは私が倒した!!ゆえに今から貴様らはゴルデン魔王軍のものとなるか、拒絶し全滅するか、どちらかを選べ!!」

魔王シィーバの魔力の影響で、空を覆っていた曇り雲は去り、太陽が差し込む。

魔王ルクセルの金の髪が輝いて見える。


ファラガリス魔王軍全員その場で膝をつき、降伏を認めた。


あらた、こやつらの根城であるファラガリス城は既に私の手の者が落として掌握しているはずだ。全軍引きあげさせ、今後の処分を決めてくる」


「そうですか。では説教は帰宅後にしておきますね」

「…え?説教??」


「私は大人しくしておくよう言いつけていたはずですが?」

「そ、そうだが……いや、ゴルデンでもチャンスだったのだ。ファラガリス魔王軍が総攻撃をしている隙に攻めて手に入れる事ができるし、捕虜になったふりしてシィーババアを倒せるし。あいつは前から若作りしてて、私がハーフなのを馬鹿にしてきて気に入らなかったし…」


「言い訳はいりません」

「い、言い訳じゃなく、あの、その………………ごめんなさい」


ふぅー

高橋は気を落ち着かせるために深く息を吐いた。

「……あなたが磔にされているのを見てどれだけ心が乱されたか。おかげで回避できるはずのマヒの目を避けれなかった」

落ち込む魔王ルクセルを抱きしめる。

あらた……すまぬ」


俺たちは何を聞かされているんだろう…。

ファラガリス魔王軍はうつむいたまま、新魔王夫妻の会話を聞くしかなかった。

「とりあえず、さっさと撤退させて処分を決めて帰宅して下さい。私は事情を説明したら帰宅しますから」

「わかった」

高橋はすっと妻に口づけると、ぽん、と頭をなでて城壁へと飛んだ。


残された魔王ルクセルは、一瞬何が起きたか分からなかったが、把握すると真っ赤になって、見ていた者が居ないか周囲を見渡した。


ふぅ…

魔王ルクセルは動揺を悟られない様、大きな声で全軍に命じた。

「全軍撤収!駆け足だ!!」

「はーっ!!」

返事をしておいて何だが、走って来たのは一部だが、移動用ゲートが出るとそれに向かって駆け足をして行くしかなかった。

新魔王の命令なので。

ゲートの外の魔王領では、当然移動してほっと一息ついた魔物達が次々駆け込んでくる後ろの魔物達に潰される混乱状態に陥っていた。

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