魔王様と旦那様
こうすけ
第1話 弱肉強食世界一強い魔王様と人類最強の旦那様
デンエン王国の監視塔から、魔物の襲来を告げる鐘が鳴り響いたのは後半時で昼休みになる頃だった。
王国を守る城壁からは、遥か彼方からものすごい勢いで土煙とともに移動してくる魔物の軍団が見える。
デンエン王は深く伸びた髭を触りながら、隣の宰相に恐る恐る聞いてみる。
「あ~高橋君、君何かしちゃったの?」
宰相の高橋は、既に部下に持って来させたバトルアックスを持っていた。
「少々お灸をすえただけですが、逆切れでしょうかねぇ」
部下3人がかりで持ってきたバトルアックスを肩にかけ、見てまいります。と言ってスッと消えた。
空間移動で城壁に移動した。
城壁は既に橋を上げ、扉は閉めている。
城に近づいた魔物の一団から、使者らしき魔物が声を張り上げた。
「高橋殿はおられるか!」
「おりますが」
「貴殿が昨夜、我らが魔王様へした事、非常に許しがたきゆえに軍を率いてまいった。いきなり攻撃を仕掛けるのは友好な関係によろしくないとは思うので、まずは話し合いに応じてもらえないだろうか!」
「話し合い…ねぇ」
高橋は城壁からさっと飛び降り、使者と対面する。
「で、その魔王様はどちらに?」
使者は後方を見る。
そこには駆竜馬車があり、扉が開かれると、泣き疲れて寝ていると思われる魔王ルクセルが、侍女の魔族に囲まれていた。
ぱっと見、普通の人間の様には見えるが、頭部の左右に伸びた角、口元の牙が人間ではないと分かる。
「どのような仕打ちをされたと聞いています?」
そう言われ、使者役のドラゴニュートの魔物が声をひそめる。
「魔王様が重く沈んだ顔で登城され、昨夜帰宅した貴殿から説教をされたが納得がいかないと泣き出され、騒ぎ出した者達を連れては参ったのですが、何をして説教されたのか、何に納得いかないのかまでは分からないのです。城内で妙な騒ぎを起こす前に連れ出した次第です」
ドラゴニュートは安直に魔王を信じているわけではなく、魔王城で騒げばさらに魔族が呼応してせっかくの平和条約を壊しかけないのでやむ得ず連れ出したといいたいらしい。
「ご苦労様です」
お互い妙な上司を持つと苦労をする。城勤め同士そこは通じ合えるものがある。
「昨夜帰宅しましたら、夕食の準備ができておらず、ゲームに熱中している魔王様がおりまして、準備ができないのなら我が家にはメイドもいるので指示ぐらいはするよう注意しただけですよ。結婚以来ご自分で家事をやりたいというので好きにやらせてはいましたが、無理をする必要もないんですが」
「ゲーム!?」
思わず声をあげた使者が慌てて口を手で覆う。
「失礼。しかしゲーム…ゲーム…数日前何かそのような話題をされていた気がしますな……確かー」
「…ゲーム大会で優勝商品に新(あらた:高橋の名前)が欲しいと言っていたフィギュアがあったのだ。それで優勝できるよう練習していたら熱中してしまい、家事がおろそかになった。そこは私も反省している。だがあの怒り方はないと納得いかなかったのだ」
いつの間にか起きてきた魔王が説明しだした。
その顔は泣きはらしてよく見えない目だったせいか、妙に魔王としての貫禄がない。
「ああ、ゲーム大会でしたか。それは王国主催のゲーム大会で、私が欲しいのではなく、国王様が景品にすると言って探す必要になった物です。別にフィギュアを欲しいという趣味はありません」
「何!?魔族にフィギュアを集めている者はいるか聞いてきたのはそう言う事だったのか!?私はてっきり趣味だとばかり…」
「そんな趣味があればすでに飾るなりしてるでしょう。そもそも我が家に1個もないフィギュアが欲しいという発想もおかしいと思わないんですか?」
「そなたの趣味は多岐に渡りすぎて良くわからぬ!大体呪いの書物コーナーは分かるが魔具などはどれが何かもよくわからんので掃除もそこはメイド達に任せるしかないし」
「結局、私がフィギュアを欲しがっていると勘違いしてゲーム大会の景品にあるから優勝して私にくれようとして、ゲームの特訓をしていたのは分かりました。確かに急に魔王様がゲームをし始めている事を、また何か面白いと思ってやり始めたのか、と決めつけていました。私の為というのは分かりましたが、昨日の説教の重要点はそこではありませんよね?家事をしないのならメイドにやらせるよう指示を出さないと、家事は自分がやると言っている以上メイド達は手を出せないんですよ。しかもゲーム中何度か声をかけられたそうですが、熱中していて聞いていなかったようで困っていたそうですし」
「そこはすまなかったと思っている。だが別に新にあげるつもりで優勝を狙っていたわけではないぞ?フィギュアといえば女体の人形だ。これを欲しいと言うのは浮気も同然!だからフィギュアを手に入れて浮気者を成敗してやろうと思っ…」
ゴスッ
鈍い音がして魔王の頭に高橋の手刀が落ちる。
「いっ…たぁ……DV!」
「手加減はしました。あまりにも阿保らしい発言と勘違いについ手が出ました。人間の手刀程度、魔族には蚊に刺された程度じゃないんですか?」
「お前は人間に当てはまらんわ!!」
半泣きで睨む魔王。威厳は既にない。
それでもさらに何か言いかけた時、使者役のドラゴニュートがこっそり魔王に伝える。
「魔王様、そろそろ人間の昼休みの時間です。これ以上の滞在は高橋殿の休み時間を削ってしまいます」
「むっ…それはいかん!」
すっと立ち、新に向かう。
「今日の所はここまでとする。説教があるなら帰宅後聞く」
さっとマントをひるがえし、たんこぶを付けたまま魔王は軍団を率いて去って行った。
と同時にお昼を告げる鐘が鳴った。
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