第6話

「おはようっ!」

 蝉の声をかき消すように。君は変わりのない笑顔でそこに立っていた。


「え?金神かながみさんって十七なの?」

「そ。見た目はこんなんにしてるけどロリじゃありませぇ〜んっ!残念だったねロ・リ・コ・ンっ!」

 ピョンと塀から降りると持っていたペットボトルを綺麗にゴミ箱に投げ入れる。……コントロール力えぐ…。

「こんな見た目なのは小さい方が妖力消費量が少なくていいんだよねぇ。私別に妖力多くないしっ。多かったら年並みの身長にしてもいいんだけど。………って言ったってどうせ優的にはこっちのがいいでしょ?」

 悪戯に笑う金神かながみさん。ま、まぁ……年上の女性と歩いてたって学校で変に噂になるよりは…。…………恋人の話とか、異性の話とか。そういうのあんまり得意じゃないんだよね、なんもないから。つまらないやつって思われて終わり……

「別に私のこと好きになってもいいんだよぉ?こんな異端な私は誰とも結婚できないだろうし。てかさせてくれないだろうし。人間なら許してくれるかも。あ…………でも、子供にも嫌な思いさせるのは、嫌だなぁ……。」

 寂しそうに笑う金神かながみさん。昨日は……てかまだ全く金神かながみさんの話に実感も現実感もないけど、でも確実に彼女が人外なのはわかった…。。いや、だって普通ここからあのゴミ箱まで投げて入るわけ…。

「てことでご馳走様ぁ〜。ジュース美味しかったぁ。」

 ………子供舌……。

「は?なんだと、ぉ?」

 僕はコーヒーのペットボトルを振ってみせる。地団駄踏む彼女を横目に僕はペットボトルを捨てに行く。十七って流石に嘘だろ。

「フフフ……舐めてもらっちゃ困るねぇ……。」

「っ!?」

「だぁれだっ!」

 急にしないでもらっていいですか…。心臓飛び出すかと思った……。。

金神かながみさんでしょ……馬鹿に…え………。」

「馬鹿にしたのはそっちでしょっ!妖力消費量を少なくするためだって言ったのに。」

 僕はゆっくり後ずさりをする。僕より少しだけ小さい彼女が上目遣いで立っていたから。…………完全に人外…。

「あ、幼女の方が好きだった?年上は好みじゃないのかい?」

 金神かながみさんは楽しそうに笑う。………いや、そんな趣味してないから……。どっちも綺麗だとは思うけど……。

 袖なしの真っ白のワンピース。降ろした黒の長髪。空のような目に、映える白い肌。……男子が好きそぉ…。僕も男だけど別にな……。

「つまんなぁい。せっかく優のために妖力使ったのにさぁ。ひどいよぉ…。」

 蹲る金神かながみさん。………これだから女子はめんどくさい。

「ごめんね、そんなつもりはn」

「自分が泣かせたみたいで嫌って正直に言えばいいのに…。」

 ………ごめん。この感じすっごい楽でいいと思ってたわ。やっぱりうざい。無理。

「………じゃ、じゃあさ?泣き止むから、金神かながみさんって呼ぶのやめてくれる…?友達なのに他人行儀でいや…。」

 わがままな…。

「………狐天さん。これでいいですか?」

「狐天じゃいや…。天って呼んで?優以外に呼んでくれる人、いないの。。」

 ………まあそりゃああなたは妖怪らしいですからね?呼んでくれる人なんているわけないのよ。

「優のバカァ!昨日はあんなに、あんなに…!」

「あぁわかったわかった…。天さん。これでいいでしょ。」

「天さんじゃ尼さんみたいで嫌ぁ!」

 ………何言ってんのかわかんないはずなのにわかる自分が怖い…。

「…………ほら、天。遊びに行くんでしょ。どこだっけ……えっと……」

「水族館っ!」

「あぁはいはい。ほら、ロリに戻って。行くよってえ?水族館?」

「そうっ!」

 キラキラの目で見る腰ほどしかない彼女。………え?

「僕お金ないけど……。」

「えやだぁ。水族館っ!行こぉ!」

 …………絶対十七歳は嘘だ……。

「水族館!水族館っ!水族館っ!」

「………せめて海にして…。」

 折れる僕に君はニヤリと笑った。


「うわぁ〜海だぁ!」

「………なあ早く帰らない…?」

「今来たばっか!わざわざこんなところまで来たのにもう帰るの…?」

 …………だって……。こんな人がいるなんて思わないじゃん…?確かに夏だけどさ…夏休みだけどさ…。。

「優はほんと人ごみ嫌いだねぇ。」

 クスクス笑う金神かながみさん。人混みが嫌いというか……人が嫌いというか…。

 人って色々な人がいるじゃない。でもその人たちは何か一つでもその人たちなりのいいところがある。そんな気がする。だから何もない自分が嫌になって………。ってなんか最もらしい理由並べてみたけどただ人多いの無理…。集団恐怖症とか全くないけど……知らない人は特に怖い…。

「たく優はこれだから…。」

 金神かながみさんはやれやれと手をあげる。

「一人見てればいいよっ!私は一妖ひとよう楽しく遊んでくるからっ!」

「待っ……。」

 人混みの中にさっさと消えていく背中。………一人の方が嫌……。僕は覚悟を決めて金神かながみさんの後を追うように人混みの中に足を踏み入れた。


「楽しいねっ!」

 勝ち誇ったように笑う金神かながみさん。………全然……。一時も心休まらない……怖い……ただ楽しむとか無理……。

「これだから陰キャはぁ。そんなんじゃ人生損ばっかだよ?」

 楽しそうに笑う彼女に、僕も思わず笑顔が溢れてしまう。なんでなんだろう。………金神かながみさんといると楽しくなってしまう自分がいる。別に面白くもなんでもないのに、楽しい。そう思えてしまう。彼女といることが……心地いいのかもしれない。

 でもそうかもな。気兼ねなくいれる。……気はする。

「……そういえばまた金髪だな。」

 金神かながみさんのおさげにした髪を触る。綺麗にまとめるよな…。

「優ったら大胆っ。」

「ばっ…!ち、ちが……。」

 僕は両手を上げて下がる。

「別にいいよぉ。私は優のものだしぃ。………黒髪になるのはね、帽子が特殊だからだよ。別に妖力使っても黒髪にできるんだけど、私妖力多くないって言ったでしょ?だからっておばさんが作ってくれたの。人間界、日本に行くのなら黒髪の方がいいでしょって。金髪で日本顔だとチャラチャラしてる感じするじゃん。しかも六歳くらいって…。」

 自分で言ったよ。自分で。

「なんていうか……魔道具みたいな感じだよね。あの帽子。黒髪にするだけだけど。」

「………便利なものもあるんだな…。」

 そんな帽子現実にあったら髪染めた馬鹿が直すの面倒だって使ってそ…。

「そんなことよりほらっ!遊ぼ遊ぼっ!せっかく海に来たのに遊ばないなんて損じゃんっ!」

 笑う金神かながみさんは沖の方へと泳いで行く。僕はため息をつきながらも笑って彼女を追いかけた。

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