第2話
流石に今日は来ないだろと思いつつ、昨日最後に言ってた言葉を思い出して身震いする。……「また明日っ!」って言ってたんだよなぁ…。
僕は大きなため息を吐くと、寝っ転がったままスマホを手探りで手繰り寄せた。……あれ?どこだ……確かここら辺に……
「優〜!」
…………ッチ。
「大きな音したけど大丈夫?」
………………ウザ。
「大丈夫っ!」
僕は腰をさすりながらゆっくり体を起こす。…急に大きな声出すなよ。驚いてベットから落ちた……もうやだ…。
「そう。ならいいけど…。」
………わざわざイラつかせてくるなよ…。お前が根端なのになんでそのお前に……!
イライラしすぎてなにかをかなぶり捨てたいと思う。
「天ちゃんがきたよ〜。」
と、母のカミングアウトに……怒りを通り越して呆れを感じてしまった僕は怒るのをやめる。無駄なことしたって疲れるだけ…。
僕はまたため息を吐くと、重い腰を上げた。
「おはよう優っ!」
僕が扉から出るとすぐ飛びついてくる
今日の僕は一段と苛ついていた。昨日の今日だ。仕方ないってことにしとく。……って言ったって僕には知らない。わからない。自分がどうしてこんなに今苛立ってるのかも、自分が何なのかさえも。誰か知ってたら教えてくんないかなぁなんて思ったりして。
「今日は原っぱ行こ!私竹馬持ってきたの!」
とニコニコと笑う彼女。………何かが吹っ切れる音がする。自分が馬鹿馬鹿しくなって僕は苦笑するように笑ったと思う。
今、僕はこの子に必要とされてるから。それならいいや。そう思えたんだ。
「いいよ。連れてってくれる?」
「ふっふふっふふーんふっふっふ」
鼻歌混じりに竹馬に乗っている
「優もやったらいいのに?」
「や、高いところ苦手だから。」
「できないからって拗ねちゃってぇ〜。」
ニヤニヤと笑う
「竹馬なんて簡単なのになぁ〜。」
「………最初からできたわけじゃないだろ。」
「だから練習するんじゃん。違う?」
悪びれのない顔。……練習なんて嫌いだ。どうせやったって認められなんてしないんだから。才能には勝てないんだから。
「ほぉらっ!やってみなよ!優が練習してる間私、お花摘んでるから、ね?」
ピョンッと竹馬から降りると棒を僕に押し付ける
身震いをする僕が彼女を見ると、もう忽然と姿を消していた。僕は辺りを見渡…あ、いた。麦わら帽子が、黄色のリボンが、飛び跳ねる。僕は思わず微笑んでいた。
とりあえず座ろう。そう思い、竹馬を軸にして草の上に座り込む。
のどかだ…。蒸し暑い。汗が止まらない。それなのに涼しいと感じるのはなんなのだろう。体がおかしくなってるのかななんて苦笑する。風が僕にまとわりついてくる。遠くから微かに聞こえる
「……スク…ク」
………?………もう少し…もうちょっとだけ寝かせて…って?
「……は?」
「あ、おはよぉ〜。遊んでたよ〜。」
呑気に笑う、隣でしゃがむ
僕の腹の上を這う虫。虫。虫。
「ひッ…」
歯の隙間から自分のものとは思えない声が出る。
「何怖がってるの。ただのカブトムシじゃん?」
ムフフと笑ってツンツンと虫を触る
「……この虫、退けてくれないか?」
いる気配だけでもう無理だ。プライドなんてどうでも良くなるくらいには。
「えぇ〜やだぁ。今楽しいトコなのにぃ。」
口を膨らませる
「お願い…。遊ぶなら違うとこでやって。」
しばらくの沈黙。その間も感じ続けさせられる虫の気配。
「ちぇ〜。わかったよ。退ければいいんでしょ退ければ!」
少しずつ消える虫の気配に安堵のため息がこぼれる。
最後の一匹が消えて、僕はゆっくり目を開ける。
「バイバイ。元気でね…。」
手から飛び出した虫に寂しそうに手を振る
ふと頭に、寝る前には無かった感触を感じ、触ってみる。……なんだこれ?
「あぁそれねぇ?私が作った花冠だよぉ〜。優似合ってる!」
クスクスと笑う
「優って門限何時?」
「……特に、言われてはないけど………まあ六時くらいには帰らないとかな?」
「そっかぁじゃあもう出ないとか……。」
寂しそうに目を逸らす横顔に僕もなんだか寂しくなる。………どうしてこの子は僕をこんなに気にかけてくれるのだろう……。
「じゃあ早くか〜えろっ!優のお母さんも心配するだろうし、ね!」
長い竹馬を抱えてさっさと駆けていく背中に僕は一人、寂しさが込み上げてくる。
僕は知りたい。心配を。だって他人の心の内はわからない。心配だって建前で口先で言うことはとても簡単で…。。僕にだってできるよ。
この前、親が風邪ひいて。ゲームしてたら心配しろよって怒られた。でもそんなこと言われたって、どうして心配しなくちゃいけないのかわからないんだ。だって勝手に風邪もらってきて、ひいて、倒れたのはそっちじゃん。完全に自業自得だろ?心配する要因がどこにあるの?そもそも心配って何?心に気を配れってこと?心に気を配って何になるの?心に気を配ったって何もいいことなんてないのに。心配なんて言葉、呪いでしかないのだから。その人を自分に縛り付けるための呪いの言葉。だって心配されてるってことはその人の頭の片隅に自分が居座ってるってことで。自意識過剰すぎだってそう言われたってそれでも嫌なものは嫌なんだ。僕なんかのことで誰かの………っそもそもだよ。どうしてお前らを心配しなきゃいけないの?僕は………心から嬉しいと思える心配をお前らにもらったことがないのに…?
…なぁんて。こんな机上いくら並べても僕が最低の人間に変わりはない。だから……君がどうして僕に会いに来るのか、僕にはわからない。
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