第11話


11


圭介さんは25歳だと言う。

奇しくも庵司と同い年だ。

身長も多分同じくらい。俺が170ないくらいだから…きっと180近くはある。

スラッと伸びた手足に、流行りの服装…シンプルな組み合わせで、25歳より若く見える。

髪は襟足の長いマッシュウルフカットで、ちょっとヤンチャに見えるスパイラルパーマが合わさった黒髪。

モテないわけ無い。

だけど…彼はゲイだと言う。

この世界の女性達が可哀想に思える程に勿体ない話だ。

そんな人と行きずりに一発やってしまった。

いつもなら断ったはずなのに、弱って蝕まれた精神は、庵司と出会う前の俺に戻りつつあった。

身体が寂しい。

出会い系や風俗を使っては虚しい心を埋めていた。

圭介さんとの一回は、そんな事の内に過ぎない。


「圭介さんこそ…どうしてあんな時間に?ましてや俺なんて拾って」

「俺?…俺は仕事帰り。あの近所の居酒屋だよ。雪乃くんを拾ったのは、可愛かったからだよ?まぁ…本当に死んじゃいそうな顔色してたし、煽るくらいがちょうど正気に戻ってイイんじゃ無いかって。」

「俺が…可愛い?」

「可愛いよ。モテるだろ?小さいし、白いし、華奢で目が大きいし…あぁ…アレだっ!モモンガみたいだよね!」

「ぶはぁっ!ゲホッ!ゲホっ!」

「わぁっ!大丈夫?!」

圭介さんがおしぼりを手渡してくれる。

俺は吹き出したコーヒーを拭いながら謝った。

「ごっごめんなさい!」

「ハハっ!イイよ、イイよ!」

「ゴホンッ…も、モモンガですか?」

「あぁ…うん、見る?ホラ、モモンガ」

圭介さんは携帯で検索したモモンガの画像を見せてくれた。

「俺、こんなですか?」

「うん…大体こんな感じだと思うけど…言われない?」

俺は笑って手をヒラヒラさせた。

「あははっ!無い無い!無いですよ!」

「…笑ったね。その方が良い。」

俺は緩んでいた頰の筋肉が緊張するのを感じた。

頰に触れて俯く。

「…彼氏が…帰ってこなくて…不安で…」

ポツポツ状況を話す俺に圭介さんは苦笑いした。

「彼氏と…住んでるんだね」

向かいに座る圭介さんは頬杖を突いて残念そうに呟いた。

「うん…」

「残念だなぁ、彼氏はこんな優良物件ほっぽって遊び歩いてんの?…やめれば?そんな奴」

圭介さんが手を伸ばして、テーブルにあった俺の手を掴んだ。

ちょうどその時だ。


『おい…ソレ、俺のなんだけど』


圭介さんに掴まれた手から正面に目をやると


そこに居たんだ。



俺の



庵司。


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