第7話


7


庵司はいまだに仕事が見つからない。

いや違う。

いまだに見つけようとしないのだ。

俺はそれでも…庵司が側に居るなら良かったんだ。

季節は夏。

朝から眩しい太陽が上がり、ジリジリと室温を上げては、どこに居るのかも分からない蝉の鳴き声が煩かった。


『今日、休み?』

庵司が洗濯物を干す俺に問いかけてくる。

「うん。」

このところ、休日も出勤という中々ブラックな働き方が続いていたせいで、俺がこの時間にゆっくりしている事なんて珍しい事だった。

『ふぅん…じゃあ、夜…飲みに行くか』

パンパンとタオルのシワを伸ばしていた俺は思わず固まってしまう。

「庵司と?!」

『あぁ…何?俺とじゃヤなの?』

ベランダの窓枠に手を掛けてこちらを覗いてくる。

俺は慌てて首を左右に振った。

すると、ゆっくり長い手が伸びて俺の頭を引き寄せ胸元に抱きしめられる。

煙草と、女性モノの甘い香水の香りがしていた。

俺は静かに目を閉じて、庵司に擦り寄る。

「楽しみだよ。…ありがとう」

『雪乃、好きだよ』

頭の上からふんわり優しく落ちてくる声に

抗えない。

重なる唇が甘くて、俺は背伸びしながら庵司に縋りついた。

抗えない。

好きで、好きで仕方ないから…。

昨日の夜、例えば彼が…

女を抱いていたと知っていても。

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