第4話 本当のわたしは
早速レーナを連れて共に洞窟へ戻った僕は、リンをおんぶする形で森を歩き回った。リンは僕よりも背があるはずなのに軽いしいい匂いがするし柔らか……ここいらで止めておこう。
幸いレーナが道を覚えていたお陰でなんとか抜けることができた。
問題なのはここからだ。いかにしてヤンデレ蔓延る街を抜けるか……。彩菜はまだ話し合いの余地があったが、他の女子たちはそりゃまあ酷いもんだよ。
「あっ悠哉くんだ。そこの女の子たちはだあれ? 死んじゃえっ」
……という軽いノリで包丁を振りかざしてくるのだから。これ、メンヘラとかじゃなくて通り魔だからね?
でも、どうして女の子によってこうも差が生まれるのだろう。今のところ特別な動きをしているのは彩菜とレーナ。彩菜は幼なじみだし、レーナは元恋仲……いや、別に僕はなんとも思っていなかったけれど。
なんて思考していると、レーナの正拳突きが僕の顔目掛けて繰り出された。寸止めだけど風がすっごい。当たったら砲丸投げレベルに首から上が吹っ飛ぶだろう。
「今何か失礼なこと考えてなかった?」
「や、別に」
ふと、視線の右下にぼやけた何かが見えた。あれは……好感度? 背中で寝息を立てるリンのにも目を向けてみる。52。んー"二人で遊びに行けるレベル"なのかな? 同じようにレーナからの好感度をもう一度見てみるけど、やっぱりもやがかかっていて見えない。
勘が鋭いガキとして発言するけれど、もしかしたら『元から好感度が高かった女の子は僕の選択次第でヤンデレ化を抑えることができる』……?
よく考えればそうだ。レーナは別として、彩菜は僕のことを友達以上くらいに思っていてもおかしくはない。他にも探せば好感度が高い女の子だっているかもしれない。
仮に。仮に仮に仮に僕とリンが結ばれない未来があったとして、選択次第では彩菜やレーナなどの、別の女の子と結ばれる未来があるということ……?
やめよう、メタい。
「見えてきたわよ、あれが私の家!」
レーナの指差す先に、西洋のお城のような大きな家。そういえばお金持ちの家系だっけ。
「――って、僕の家に向かってたんじゃないの?」
「バカ、あんたの家じゃ狭くてゆっくりできないでしょ。今日は来る最終日に向けて羽を伸ばすのよ。ま、あたしのメイドに狙われるかもしれないけどね」
「へへえ……」
「リン……さん。あなたさ、実際のところ悠哉のことどう思ってるの?」
「……私の前では気張らなくていいですよ。あと、リンで構いません」
悠哉が……いや、リンの言う通り、素でいこう。悠くんがあた……わたしの貸した部屋で休んでいる間、わたしとリンは女二人で浴場に来ていた。
「わ、わかったから質問に答えてっ」
ツンデレは装っているだけ。本当は悠くんが他の人と話しているなんて耐えられない。けれど、こんなの昔から、慣れっこだから――
「好きですよ、もちろん。ですが、レーナさんのことも気に入っています」
リンは鋭い目付きでそう言うと、わたしを抱き寄せた。
「えっなっなっ、なにするのっ!?」
「疲れているときには、ハグが一番効果があるので」
「でもっ恥ずか……し……い。こ、こんなこと悠くんにも」
「しません」
「だよね……」
レーナの家で休息を取り、心身ともに回復したところで迎えた運命の最終日。
僕たちはヤンデレ蔓延る街を抜け、自宅へと向かった。この先どんな最強のヤンデレが現れようと、立ち向かっていく。そう意気込んでいたんだけど、僕を待ち受けていたのは想像もしなかったような、あの女の子だった――――
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