第579話 歩道橋

 道路の向こう側に、彼の姿が見えた。


 声をかけようとするが、道路の幅が広く、車通りも多いため、たぶん声は届かない。


 あと、恥ずかしいし。


 近くの信号は、さっき変わったばっかりだったはず。


 もうしばらく、変わらない。


 次に信号が変わるまで待つ?


 いや、そう言えば彼の家は、もう少し行った先の交差点を曲がったところ。


 待っていたら、曲がられてしまう。


 そこまで追いかけて、偶然の出会いを装うのは無理がある。


 焦っていると、目の前に歩道橋があることに気づく。


 走って歩道橋を登る。


 歩道橋の真ん中あたりで、手を振りながら叫ぶ。


 ……恥ずかしくない程度に。


「おーい!」


 彼は気づいて、にっこりと笑いながら手を振り返してくれた。

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