第578話 おたま

「あ、お皿ちょうだい。いれるよ」


 部活の合宿の飯盒炊爨はんごうすいさんで、カレーのルーが入った鍋の前でおたまを片手に彼女が言う。


「あー、ありがとう」


「いえいえ。いっぱい入れとくね」


 なんだか、夫婦みたいだと。


 新婚で、一緒にカレーを作って、よそってくれるお嫁さんみたいだと。


 そんな妄想をした。


 でも、これは僕にだけじゃない。


 同じ班のみんなにもしていることだ。


 あのおたまの中身は、僕へだけじゃない。


 みんなへ向けられている。


 なんだか、寂しくなった。

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