第566話 あんぱん

 屋上で二人、ご飯を食べている。


 否、一人はあんぱんを食べているが、もう一人は何も食べていない。


 あんぱんを食べている女の子が、もう一人の男の子に話しかける。


「自己犠牲ってかっこいいよね」


「急にどうした? まあ、かっこいいけど……」


「親切な人ってかっこいいよね」


「どうしたんだよ、急に」


「……。——君さ。かっこよかったよ。お弁当忘れて、購買のパンも売り切れてて困っていたコに、自分はお腹いっぱいだけど間違えて買ったからって、購買で買った自分のパンをあげてて……」


「いや、あれはホントにお腹がいっぱいで――」


 そんな言葉を遮るように、彼のお腹からグー、と音が鳴る。


「嘘じゃん。……ほら、あげるよ。食べかけだけど、半分こ」


 彼女があんぱんを差し出す。


「いや、悪いよ。それにこれ、俺は気にしないけど、間接キス……」


「いいの。貰ってよ。私もかっこつけたいからさ。それに私、――君なら間接キスも気にしないよ。かっこよかった、って言ったじゃん」


「え、それって……。いや、ありがとう。いただきます」

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