* 尖端の記憶 *
雷雲はとうとう庭までやってきた。
雷鳴は轟き、閃光は空を駆け巡る。
美しかった庭は焼け、鳥は堕ち、花々は種を残す事もなく燃え尽きた。
炎で輝く家の窓から庭の主はただ笑う。流す涙もなく笑う。
庭の騎士はそれを見て、己も流す涙もないことを知る。
しがない銅の塊は、はじめから何も術がなかったことを悟る。
焼け跡に残るは己のみ。泣きも笑いもしない銅の塊が二つ。
未来のことなんて考えたくない。そう言って彼女は剃刀を手にする。
「やめろよ、そんなこと」
希望なんて馬鹿げてる。希望がなければ不安もないわ。目を伏せて彼女は自分を傷つける。
「助けてほしいのか?」
ナオミはぽろぽろと涙をこぼして頭を横に振った。
「おれはどうすればいいんだ?」
ただこうしていてほしいの。わかるでしょ、わかるよね? 彼女はおれの手を握ろうとする……おれはどうしていいのかわからなかった。いや、わかっていた。わかっていたがどうする気にもなれなかったんだ。
だっておれには自分自身ほど嫌いな人間はいないんだ。
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