* ひとりぼっちのうちゅうじんの記憶 *

「音も言葉もなにもない世界に住みたいな。わずらわしさもなにもない、理解する必要も理解してもらえないもどかしさもなにも──」

「理解しようとする努力もなにも?」

 彼女は苦々しく首を振る。

「そこで……ずっと、寝て過ごしたい。その世界の住民のすることといえば、瞼を閉じることだけなのよ。閉じたらもう一生、開ける必要もないの」

「ひどく退屈な世界だね」

「退屈のほうがずっとマシ」ナオミは煙草に火を入れて深く吸い込んでから、こんなものも必要ないの、と不器用に微笑んだ。

「地球にひとりぼっちで残された宇宙人は、どうするかしら」

「さあね、お迎えのUFOを待つんじゃないの?」

「きっと誰にも知られない場所でひっそり死ぬのよ。死ななければ人間達に捕まって実験体になってしまうもの」

「そうかな、もっと友好的に出来ないかな」

「無理よ。同種同士ですら理解しあえないのに、どうしてたった一人の何の力もない宇宙人と友好条約を結べるかしら。異種の知的生命体同士は共存しあえないに決まってるわ」

「決まってるのか?」

「決まっているのよ」

「見た事もないのに?」

「知ってるもの、私。蓮治も知ってるでしょ」

「……そうだね」

「でも、二人だったら……二人なら手をつないで一緒に眠ることも出来る」

 ナオミの頭の中の幸せで退屈な世界は、けして現実に現れる日のないことを二人ともよく知っていた。今日もチンケで意味のない会話をしながら一日が終わるのを待つだけ。そうしていれば、永遠にこの世界の住人で居続けられることを二人はわかっていた。ナオミはおれの手を取った。おれは握り返さず、かといって振り払いもしなかった。目を閉じた後は開かなければならないだけ。この時そのことを知っていたのはおれだったのだろうか、それとも実はナオミだったのだろうか。

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