Chap2アントワープの事件

1.逆境

1.逆境

どのくらい眠っていたのだろう。頭がぼんやりしてまだ状況が理解できていない。右手に何か握っていることと、ベタベタしたものが付着していることに気付く。気怠さが激しく、このままもっと微睡んでいたいのだが、自身に降り掛かっている異変を看過するわけにはいかないようだ。床に横たわっていた体をゆっくりと起こし辺りを見渡すと、おそらく人間がソファの上で胸から大量の血と見られるものを流してぐったりしているのが目に入る。そして、自身が手に持っているおよそ凶器と見られる物体は刃渡り30cmほどの牛刀で、夥しい量の血が付着している。


何が起きているのかすぐには飲み込めなかったが、やがて彼女の中に1つの仮説が立てられた。ルンビニの事件での"違和感"は当たっていて、彼らの核心をついたのだ。だから自身を犯罪者に仕立て上げることで口を塞ごうとしているのだろう。しかし、殺さずにこんな回りくどいやり方をする理由はまだ分からない。とにかく生きている限り、愛する息子を何としてでも救出しなければならないし、ソナタ自身がこの世に生み出した職業"事件コンサルタント"を生業として生きることを決めた以上、これを全うせずに死ぬことはあり得ない。そして、いまや家族はロンド、メライ、バルカ…息子だけではなく、すべてを捧げるべきかけがいのない存在が増えた。


ソナタの気概は灼熱の太陽よりも迸り、ソナタの意志はダイヤモンドよりも硬く、ソナタの博愛は人間の真理を体現する。壊滅的な状況からすべてを取り戻す物語がいまここから始まるのだ。

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